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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

日影丈吉『真赤な子犬』(徳間文庫)

 体調が思わしくないくせに午前様まで仕事。ミステリ同様、中毒としか思えない。

 日影丈吉の『真赤な子犬』を読む。
 先日読んだ『孤独の罠』は社会派とでも言えそうなリアルな推理小説だったわけだが、『真赤な子犬』はけっこうまっとうな本格探偵小説である。これまで短編だけを読んで、主に幻想的な話を書く作家という認識しかなかったのだが、日影丈吉という人は予想以上に幅広い作風を持つようで、大いに考え方を改めなければならない。まあ、何を今さらという感じではあるが(笑)。

 さて『真赤な子犬』である。
 上で本作を本格探偵小説と書いたが、実際にはちょっと違う。というのもいわゆる英米に端を発した論理重視の本格ではないからである。「謎を解く」という基本ラインはあるものの、事件の見せ方、謎の解き方はまったく型にはまらない奔放さを持つ。
 例えば導入。事件が発生する場面において、同じシーンを異なる二者の立場から再現するという見せ方を用いる。また、小見出しにおいては「本格物の退屈な部分」などという探偵小説を茶化したキャッチもある。加えて軽妙な文体、洒落た描写も通常の本格とは一線を画しており、ラストで明かされる結末も、思わずニヤリとさせられる上手さ。そう、このセンスこそが日影丈吉なのだ。著者が愛したフランス・ミステリ、その味わいに近いのかもしれない。
 なんというか、ミステリが上質な娯楽であることを再認識させてくれる、そんな一冊なのである。ただし、この手のタイプの作品も悪くはないが、やはり幻想的な短編や『孤独の罠』路線の方が、個人的にははるかに楽しめる。微妙。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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