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樹下太郎『四十九歳大全集』(講談社)
今まで著作を読んだことがないくせに、古本屋で見かけるとついつい買ってしまう作家がいるものだが(いるのか?)、私には樹下太郎がその一人にあたる。まあ、短編をいくつか読んだことはあるし、その印象がよかったので、まったく未知の作家というわけではないのだが。
さて、樹下太郎である。彼がミステリ作家であることはもちろんご存じだろうが、実はミステリ作家として活躍した期間はそれほど長くなく、1958年頃からせいぜい5年ぐらい(ただしこの間にかなりの数のミステリを書いてはいるが)。で、あとは何かというと、これがサラリーマン小説というやつだ。
本日の読了本は、そのサラリーマン小説群を代表する『四十九歳大全集』。ミステリの方の著作もほとんど読んでないのに、いきなりこっちから入って良いのかという気がしないでもないが、まあいいでしょ。
本書はタイトルどおり、四十九歳のサラリーマンを主人公にした短編集。
これらの短編が書かれた時期の四十九歳というのは、戦争を体験し、多くの仲間を失い、同時に絶対的な価値観すら失った世代である。ある種の虚無感というか諦めにも似た感覚でサラリーマンになり、毎日を過ごす。そんな複雑な世代の人々の有り様を、著者はときにユーモラスに、ときにペーソスにくるんで描写する。
正直、サラリーマン小説というくくりに軽い読み物を予想していたのだが、これがなかなか。今読んでも古さをほとんど感じさせず、せいぜい時代ゆえの風俗描写ぐらいのものか。とにかく語り口が上手い。読みやすいだけでなく、構成も巧みで、読後の味わいは想像以上に深いことに驚く。
サラリーマンという題材を終始扱ってはいるものの、各作品の根底には、生きることへの執着がある。このカラッとした作風はどうしても誤解されやすいと思うが、ただのサラリーマン小説だと思って読まないのも、少しもったいない話だ。
表題作の最後に、主人公のサラリーマンが社長に「生きがいってなんですか?」と聞く場面があるが、社長の返答が粋だ。
「生きがいってのは最近のはやり病のようなもので、生きているから山や海を見られるんじゃないのかな」
さて、樹下太郎である。彼がミステリ作家であることはもちろんご存じだろうが、実はミステリ作家として活躍した期間はそれほど長くなく、1958年頃からせいぜい5年ぐらい(ただしこの間にかなりの数のミステリを書いてはいるが)。で、あとは何かというと、これがサラリーマン小説というやつだ。
本日の読了本は、そのサラリーマン小説群を代表する『四十九歳大全集』。ミステリの方の著作もほとんど読んでないのに、いきなりこっちから入って良いのかという気がしないでもないが、まあいいでしょ。
本書はタイトルどおり、四十九歳のサラリーマンを主人公にした短編集。
これらの短編が書かれた時期の四十九歳というのは、戦争を体験し、多くの仲間を失い、同時に絶対的な価値観すら失った世代である。ある種の虚無感というか諦めにも似た感覚でサラリーマンになり、毎日を過ごす。そんな複雑な世代の人々の有り様を、著者はときにユーモラスに、ときにペーソスにくるんで描写する。
正直、サラリーマン小説というくくりに軽い読み物を予想していたのだが、これがなかなか。今読んでも古さをほとんど感じさせず、せいぜい時代ゆえの風俗描写ぐらいのものか。とにかく語り口が上手い。読みやすいだけでなく、構成も巧みで、読後の味わいは想像以上に深いことに驚く。
サラリーマンという題材を終始扱ってはいるものの、各作品の根底には、生きることへの執着がある。このカラッとした作風はどうしても誤解されやすいと思うが、ただのサラリーマン小説だと思って読まないのも、少しもったいない話だ。
表題作の最後に、主人公のサラリーマンが社長に「生きがいってなんですか?」と聞く場面があるが、社長の返答が粋だ。
「生きがいってのは最近のはやり病のようなもので、生きているから山や海を見られるんじゃないのかな」
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