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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

海野十三『地球要塞』(桃源社)

 DVD『座頭市』を観る。もともと北野監督の作品は淡々とした描写が多く、かつ巧いと思うのだが、それがハードボイルド系の作品には殊の外マッチする。デビュー作の『その男凶暴につき』もそうだが、基本的には殺伐としており、そのなかにほんの少しだけ効かせた優しさがなんともいい味を出す。
 『座頭市』にしても、座頭市は主役であって主役でない存在。この距離感がハードボイルドなんである。従来の時代劇にありがちな人情話は抑えめに、殺陣とエピソードでクールに繋ぐ。見事です。強いていえば多すぎる回想シーンがちょっと煩わしいか。

 読了本は海野十三の『地球要塞』(桃源社)。収録作は「地球要塞」「太平洋魔城」「浮かぶ飛行島」の三作。短めの長編というか中編を集めたもので、一応どれも要塞ものというか秘密基地ものというか、つまりそういう軍事要塞を巡っての戦いを描いた少年向けの物語。ミステリではなく、軍事科学小説である。

 このうち「浮かぶ飛行島」については以前の日記に書いたとおりで、盛り沢山の活劇に意外なほど面白く読めたが、結局、他の二作についてもほとんど同じような話なので、続けて読むと少々食傷気味(苦笑)。勇気や精神力だけでなく科学力をもっと高めないと諸外国に遅れをとるぞ、というテーマも常に一貫している。だがあまりにも科学色を強めた「地球要塞」は、少しやりすぎではなかろうかと、要らぬ心配をするほどである(笑)。
 ちなみに最近読んでいる小栗虫太郎の諸作品も同時代に書かれたものだ。まだ探偵小説というジャンルが熟成していない昭和初期という時代にあって、二人のベクトルの差がここまで開いているのが興味深い。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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