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小栗虫太郎『青い鷺』(現代教養文庫)
小栗虫太郎の『青い鷺』(現代教養文庫)読了。収録されているのは長編というか中編というか、「二十世紀鉄仮面」「青い鷺」の二作。どちらも初読である。
『黒死館殺人事件』のインパクトが圧倒的に強すぎるため、なかなか他の長編については語られることが少ない小栗虫太郎だが、けっこう長編も書いている。それらもボチボチ読んでいこうという個人的企画である。
まずは「二十世紀鉄仮面」。法水ものではあるが、ただの本格探偵小説ではない。これがなんと浪漫主義に満ち溢れた、血湧き肉躍る冒険小説仕立てなのである。名探偵法水からして黒死館や短編で見られるような面白味のない人物ではなくなっている。感情表現が激しく、敵と丁々発止の駆け引きを駆使し、おまけに多くの女性たちと浮き名を流すというから面白い。
ただし、作品の完成度はと聞かれると少々辛い。個々のエピソードは探偵小説的で楽しめるが、物語全体の流れが悪く、読みにくさは相変わらず(まあ、他の小栗の作品よりはずいぶん読みやすい部類ではあるが)。特に場面転換などが改行もなく文中の一行でさらっと行われたり、それまで登場していなかった人物が、さも既出の人物のように出てきたりするので、思わず何か読み飛ばしたのか後戻りして確認することもしばしば。
それでも前述のように、場面場面の展開は面白い。小栗が自ら浪漫主義に溢れる小説をめざして書いたと述べているように、読者を置いてきぼりにするという部分は遙かに少なくなっているように思う。贅沢に散りばめられた暗号やトリック(これまた相変わらず独りよがりではあるが)、派手なストーリー展開と設定は、読者を楽しませようという意気込みがひしひしと伝わってくる。法水その人こそイマイチだが、敵役の十九郎や複数いるヒロインたちの存在もそれぞれいい味を出している。
そういう意味では明らかに初期の小栗作品とは一線を画しており、小栗虫太郎を語るうえでは、『黒死館殺人事件』同様に重要な作品といえるのではないだろうか。
「二十世紀鉄仮面」が冒険小説なら「青い鷺」は伝奇小説か。タイトルどおりの「青い鷺」をキーワードに繰り広げられる秘密結社もの。読みにくさは「二十世紀鉄仮面」と同じレベル(くどいようだが、これでも読みやすい方です)だが、序盤から中盤にかけての勢いはなかなかのものがあり、我慢して読む価値はある。ただ、頻発する「青い鷺」のエピソードの仕方がなんとも強引で、だめな人にはだめでしょう(笑)。
結局、ペダンティズムだ文体がどうだと言う前に、このトンデモ系のトリックが小栗虫太郎の好き嫌いを大きく左右するのではないだろうか。
『黒死館殺人事件』のインパクトが圧倒的に強すぎるため、なかなか他の長編については語られることが少ない小栗虫太郎だが、けっこう長編も書いている。それらもボチボチ読んでいこうという個人的企画である。
まずは「二十世紀鉄仮面」。法水ものではあるが、ただの本格探偵小説ではない。これがなんと浪漫主義に満ち溢れた、血湧き肉躍る冒険小説仕立てなのである。名探偵法水からして黒死館や短編で見られるような面白味のない人物ではなくなっている。感情表現が激しく、敵と丁々発止の駆け引きを駆使し、おまけに多くの女性たちと浮き名を流すというから面白い。
ただし、作品の完成度はと聞かれると少々辛い。個々のエピソードは探偵小説的で楽しめるが、物語全体の流れが悪く、読みにくさは相変わらず(まあ、他の小栗の作品よりはずいぶん読みやすい部類ではあるが)。特に場面転換などが改行もなく文中の一行でさらっと行われたり、それまで登場していなかった人物が、さも既出の人物のように出てきたりするので、思わず何か読み飛ばしたのか後戻りして確認することもしばしば。
それでも前述のように、場面場面の展開は面白い。小栗が自ら浪漫主義に溢れる小説をめざして書いたと述べているように、読者を置いてきぼりにするという部分は遙かに少なくなっているように思う。贅沢に散りばめられた暗号やトリック(これまた相変わらず独りよがりではあるが)、派手なストーリー展開と設定は、読者を楽しませようという意気込みがひしひしと伝わってくる。法水その人こそイマイチだが、敵役の十九郎や複数いるヒロインたちの存在もそれぞれいい味を出している。
そういう意味では明らかに初期の小栗作品とは一線を画しており、小栗虫太郎を語るうえでは、『黒死館殺人事件』同様に重要な作品といえるのではないだろうか。
「二十世紀鉄仮面」が冒険小説なら「青い鷺」は伝奇小説か。タイトルどおりの「青い鷺」をキーワードに繰り広げられる秘密結社もの。読みにくさは「二十世紀鉄仮面」と同じレベル(くどいようだが、これでも読みやすい方です)だが、序盤から中盤にかけての勢いはなかなかのものがあり、我慢して読む価値はある。ただ、頻発する「青い鷺」のエピソードの仕方がなんとも強引で、だめな人にはだめでしょう(笑)。
結局、ペダンティズムだ文体がどうだと言う前に、このトンデモ系のトリックが小栗虫太郎の好き嫌いを大きく左右するのではないだろうか。
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