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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ピーター・ディキンスン『盃のなかのトカゲ』(ハヤカワミステリ)

 ピーター・ディキンスン『盃のなかのトカゲ』を読む。まずはストーリー。

 ギリシャの南西沖はイオニア海に位置するヒオス島。美しい自然と幾多の伝説が残るその島で、もっとも豪華な別荘を構えているのが大富豪タナトスであった。実業界で名をあげ、巨大な財力と権力を有する彼は、同時に敵も多い。今回は西インド諸島のマフィアの権利を横取りしようとしたため、襲撃の危険もあるという。そこで信頼する四人の部下に召集がかかり、専門家として元警視のピブルも加わることになった……。

 本来ならサスペンスに溢れる暗殺ものという設定だが、ディキンスンの常として語り口が曖昧なので、緊迫感はそれほど伝わってこない。ピブルは調査を続けているのだがこれまた曖昧で、何かの予感は感じているが、何が起こっているのかはわからない始末。『眠りと死は兄弟』も似たような感じだが、本作では一応暗殺を前提としており、やろうと思えばいくらでもスリリングなお話になるはずなので、どうにも話に乗っていけない。
 もちろん作者はそんなこと百も承知なのだろうし、こちらもそれを承知しているつもりなのだが、それにしても……だ。

 最終的にはある陰謀が明らかになるにせよ、わざわざピブルを探偵役として起用する必要もないし、ミステリにする必要もないのではないかとも思える。とにかくフラストレーションが溜まる溜まる。
 ただ、ディキンスンのたちが悪いのは、ミステリとして一見失敗作のように思える作品がなぜかけっこう魅力的で、読んでいる間、つまらないとは決して思わないことだ。自分のなかでディキンスンに対する評価もいまいち固まっていないので、これは今後の宿題。歯切れの悪い感想ですまん。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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