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エリス・ピーターズ『納骨堂の多すぎた死体』(原書房)
フェリス一家が避暑に訪れたとある田舎町。そこでは折しもジャーナリストのサイモンによって、二百年ぶりに地元の名家トレヴェッラ家領主の棺を開けるという計画が進められていた。フェルス親子はある事件をきっかけにこの催しにつきあうことになったが、棺の中から現れたのは、なんと数日前から行方不明だったトレヴェッラ家の庭師の死体だった。それだけではない。さらにその庭師の死体の下には、数年前に死んだと思われる男の死体まであったのだ。
エリス・ピーターズの『納骨堂の多すぎた死体』読了。
カドフェル・シリーズで有名なエリス・ピーターズの、もうひとつのシリーズ、フェルス一家ものである。といってもこのフェルス一家シリーズ、実はカドフェルシリーズ以前に書かれていたもので、カドフェルがヒットしてからは自然消滅しているようだ。そのため正直言ってあまり期待せずに読み始めたのだが、いやいや予想以上に面白いじゃありませんか。
基本的には、棺のなかにあった二つの死体の謎をめぐる物語だが、これだけでも盛り沢山なところへ、二百年前に死んだ領主をめぐる謎も絡めているのが贅沢。この部分は歴史ミステリとしても楽しめ、締めて三つの謎をめぐって物語が展開するという欲張りな設定なのである。もちろんすべての謎が明らかになったとき、三つの事件が一本の線になっていることが判明するわけで、トリックなどは弱いものの、プロットの妙が冴えている。
本書で引っかかるのは、この設定でなおかつ味付けに終わらない少年の成長物語を加味していることである。冒険小説やハードボイルドにはこういうタイプも少なくないが、本格でここまでやるケースはかなり珍しい。しかもこれに加えて、他の登場人物たちによる恋愛ドラマなども含めているため、少々やりすぎの嫌いがある。それほどボリュームのある本ではないので、それらの要素すべてに決着をつけようとすると、どうしても凝ったことはできず、いきおい型どおりの展開にならざるを得ないという欠点がある。
もう少しページを使ってじっくりと書き込むか、あるいは成長物語と恋愛ドラマのどちらかは削って一方に絞るかすれば良かったのではないか。ミステリ的な部分がよいだけにちょっともったいない気がする。
ただ、こういったエンターテイナーとしてのサービス精神が旺盛だったからこそ、後のカドフェル・シリーズが生まれたのだとは思うが。
エリス・ピーターズの『納骨堂の多すぎた死体』読了。
カドフェル・シリーズで有名なエリス・ピーターズの、もうひとつのシリーズ、フェルス一家ものである。といってもこのフェルス一家シリーズ、実はカドフェルシリーズ以前に書かれていたもので、カドフェルがヒットしてからは自然消滅しているようだ。そのため正直言ってあまり期待せずに読み始めたのだが、いやいや予想以上に面白いじゃありませんか。
基本的には、棺のなかにあった二つの死体の謎をめぐる物語だが、これだけでも盛り沢山なところへ、二百年前に死んだ領主をめぐる謎も絡めているのが贅沢。この部分は歴史ミステリとしても楽しめ、締めて三つの謎をめぐって物語が展開するという欲張りな設定なのである。もちろんすべての謎が明らかになったとき、三つの事件が一本の線になっていることが判明するわけで、トリックなどは弱いものの、プロットの妙が冴えている。
本書で引っかかるのは、この設定でなおかつ味付けに終わらない少年の成長物語を加味していることである。冒険小説やハードボイルドにはこういうタイプも少なくないが、本格でここまでやるケースはかなり珍しい。しかもこれに加えて、他の登場人物たちによる恋愛ドラマなども含めているため、少々やりすぎの嫌いがある。それほどボリュームのある本ではないので、それらの要素すべてに決着をつけようとすると、どうしても凝ったことはできず、いきおい型どおりの展開にならざるを得ないという欠点がある。
もう少しページを使ってじっくりと書き込むか、あるいは成長物語と恋愛ドラマのどちらかは削って一方に絞るかすれば良かったのではないか。ミステリ的な部分がよいだけにちょっともったいない気がする。
ただ、こういったエンターテイナーとしてのサービス精神が旺盛だったからこそ、後のカドフェル・シリーズが生まれたのだとは思うが。
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