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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ニコラス・ブレイク『旅人の首』(ハヤカワミステリ)

 ニコラス・ブレイクの『旅人の首』読了。
 いやぁ、ニコラス・ブレイクはいい。英国の古き良きミステリを堪能しようと思うなら、クリスティやセイヤーズもいいのだが、個人的にはニコラス・ブレイクに軍配を上げたい。若い頃に読んだ作品ではあの傑作『野獣死すべし』以外印象に残らなかったのだが、今考えると、いったい自分は何を読んでいたのかと思う。
 確かにパズラーとしては他の大御所ほど強烈なトリックを生みだしたわけではない。では希代のストーリーテラーかというと、これもまた違う。それゆえに一見、退屈そうな印象を与え、知名度では他の作家に劣る。だが、本格探偵小説という本来ゲーム性の非常に強いジャンルにもかかわらず、ここまで読書による充実感をしっかりと味会わせてくれる作家はそれほど多くない。

 本作もいたって地味だ。首無し死体という導入や、片田舎の旧家という舞台など、思わず横溝正史かと思わんばかりの道具立てだが、ことさらエキセントリックにあおることはせず、有名詩人を主とする家族のドラマを丹念に、だが淡々と描き出していく。何でもない会話やエピソードの積み重ね、心理描写の巧みさ。ここにブレイクの魅力がある。
 それは小説の奥行きを深めるという本来の機能はもちろんだが、ミステリの要素としても十分に活かされている。例えば、探偵役のストレンジウェイズがラストの謎解きにおいて、なぜある容疑者が犯人とは思えなかったのか説明するシーンがある。その根拠は多分に心理的・感覚的なもので証拠としては弱いものの、その説得力は非常に高い。
 本作にかぎっていえば犯人の見当は割合つきやすいし謎解きとしてはやや弱いものの、読んでおいて損はない。英国ミステリのファンなら尚更である。
 ブレイクにはまだ未訳作品もいくつか残っているが、ぜひ創元でも早川でも原書房でも残りを出してもらいたいものである。ブレイクには絶対その価値がある。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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