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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


海野十三『深夜の市長』(講談社大衆文学館)

 とりあえず年が明ける。一日中、酒を飲み、おせち料理や雑煮を食い、テレビや本を見てダラダラ。こういう生活を一ヶ月ぐらい続けてみたいものだが、やっぱりダメ人間になっちゃうんだろうな。それはそれで楽しそうな気もするが(笑)。

 新年一発目の読書は海野十三の『深夜の市長』。昨年の一冊目はハリポタだったので、少しはミステリっぽいっものから始めようと思ったのだが、これがなかなか変な話であった。

 主人公は検察局に勤めるかたわら探偵小説も書く「僕」。夜になると街を徘徊するという変わった趣味があるのだが、その途中で殺人事件に巻き込まれ、「深夜の市長」と名乗る老人に助けられたことから奇妙な体験をすることになる……。

 一言でいうと幻想味の強いスリラーといった感じだが、とにかくストーリーの先が読めない妙な話である。アクションは多いし、意外な真相もあり、一応は探偵小説の骨格を備えているが、このバランスの悪さは海野の作品に慣れている人でもちょっと戸惑うかもしれない。
 とにかく作者の狙いが掴みにくいというのが本書の欠点でもあり、長所にもなっている。よく言えば読後の印象はチェスタトンの『木曜の男』と似た感じだ。だが残念ながら海野は本書でそこまでの高みを狙っている風はない。
 例えば、本書の肝といえるT市の昼と夜の二面性が、思ったほど鮮明に描かれていないのは惜しい。もちろん物語の設定としてはハッキリと違いを出しているが、その質に差がないというべきか。夜の顔がより幻想的に、より狂気をはらんでいれば、大傑作になった気もするのだが……。

 そんなわけで、このままでも面白いことは面白いが、十分に設定を生かしきれていないかなというのが正直なところ。雰囲気に押されて深読みしたくなる設定ではあるが、あくまで娯楽小説として読むのが適切であろう。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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