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 小泉喜美子という作家について今さら説明するまでもないだろうが、念のために書いておくと……海外ミステリー、それも都会風の小粋なミステリをこよなく愛し、自作でも同傾向のミステリーをいくつか残した作家。本作のようなエッセイを初め、評論や翻訳に至るまで、幅広くミステリの世界で活躍した。

 本書はそんな彼女の遺作となったエッセイ集。一年十二ヶ月を、花札をモチーフにしてそれにまつわるミステリーを紹介した本であるが、その舌鋒はなかなかに鋭く、軽いエッセイだと思って読んだミステリー初心者は、かなり面食らうのではないか。
 そもそも女史のミステリ観はなかなか個性的というかアクが強い。曰く「ミステリーは大人としての余裕をもった、知的で洗練された遊びでなくてはならない」。えっと、このとおりだったかどうかは忘れたが、だいたいこんな感じである。まあ、彼女の主張で終わるだけならいいのだが、これに当てはまらないものはことごとく切り捨てる。人間の描かれていないパズラー、トリックや意外性ばかりを偏重するマニア、活劇ばかりのハードボイルドもどき、快刀乱麻のごとくたたっ斬ってゆく。いや、その激しいこと激しいこと。
 いったいこれは何なんだ。誤解を恐れずにいってしまえば、要は彼女が好むミステリが認められないこと、彼女自身の作品が認められないこと、彼女自身がそのような作品を生み出せないことへの歯がゆさも多分にあるのではないか。

 ただ、彼女のミステリに対するスタンスはかなり独特ではあるものの、決して偏見ではないだろう。言っていることは間違ってはいないし、私など読書傾向が似ていることもあって、共感できる部分も多いのである。小説として稚拙なものが多すぎること、海外ミステリーがあまり読まれないこと、フレンチ・ミステリーが低く評価されていることなど、肯けることもまた多い。
 本書の刊行は1985年だが、悲しいことに彼女の主張は現在のミステリーシーンでも十分に通用する。少なくとも死ぬまでミステリーとつき合おうと思う人にとって、本書は必読である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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