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シオドア・スタージョン『海を失った男』(晶文社)
いやー。しかし歳をとると一年の経つのが早く感じるが、12月はとりわけ早い。社内の組織編成の改正に着手しているのだが、問題山積のうえに通常業務までガシガシ入ってくるので一向にヒマにならん。それどころか今週はほとんど朝帰りのうえに、2、3時間の睡眠時間ですぐに会社へとんぼ返りという生活を送っている。我ながらよく体力がもつものだと感心するが、一山越えた正月あたりにぶっ倒れそうな気がしないでもない。大丈夫か、おれ。
そんなこんなでシオドア・スタージョンの『海を失った男』も読み終えるまでに五日間かけるという体たらく。
さて、シオドア・スタージョンという作家だが、知識として持っているのは、本来はSF作家であるということ。エラリー・クイーンの『盤面の敵』の代作者であるということ、そして早川書房の異色作家短編集の効き目とも言える『一角獣・多角獣』の作者であるということ。と、まあ以上の三点なのだが、SF読みではないこちらとしてはもう十分すぎるインパクトではある。
それだけに惹かれる作家ではあるのだが、結局、SF畑の人ということで今までは決して良い読者ではなかった。かろうじて『きみの血を』と『盤面の敵』、そして短編をいくつか読んだきり。しかし、今回の『海を失った男』は何といっても晶文社ミステリの一冊である。『きみの血を』でもミステリっぽい味付けがなされていたことから、期待するなという方が無理な話だ。
The Music「ミュージック」
Bianca's Hands「ビアンカの手」
Maturity「成熟」
It Wasn't Syzygy「シジジイじゃない」
Rule of Three「三の法則」
...And My Fear Is Great...「そして私のおそれはつのる」
The Graveyard Reader「墓読み」
The Man Who Lost the Sea「海を失った男」
実に面白い。特に気に入ったのは「ビアンカの手」や「成熟」、「そして私のおそれはつのる」、「墓読み」など。まさに宝石のような作品集である。
感心したのは、テーマの掘り下げとその展開である。かなりの作品に共通していると思うのだが、ミステリ畑の多くの作家のそれとは違い、スタージョンは明らかに単なる娯楽以外の部分を視野に入れている。もちろんそれは人間を描くことに他ならないのだが、単に思想を語るのではなく、SF的手法を巧みに利用してトリッキーなテーマのアクロバットを見せるところがすごい。
例えば「そして私のおそれはつのる」では、老婆とチンピラの交流を描く。老婆は実は選ばれた人間であり、超能力を使うことができるのだが、隠された資質をチンピラに見いだし、そのチンピラを覚醒&更正させようとするのだ。ここまでは実にありがちな設定で、何となく先の予想もつく。ところがここでスタージョンはチンピラの恋人を登場させ、まったく予想だにしない展開を披露する。ネタバレにしたくないのでここでは書かないが、この短編を読み終えたときはもう開いた口がふさがらなかった。個人的にはこれがベストだ。
なお、近々、河出書房新社から『不思議のひと触れ』というタイトルで、よりSF色の強い短編集も出るらしい。これも買わなきゃ。
そんなこんなでシオドア・スタージョンの『海を失った男』も読み終えるまでに五日間かけるという体たらく。
さて、シオドア・スタージョンという作家だが、知識として持っているのは、本来はSF作家であるということ。エラリー・クイーンの『盤面の敵』の代作者であるということ、そして早川書房の異色作家短編集の効き目とも言える『一角獣・多角獣』の作者であるということ。と、まあ以上の三点なのだが、SF読みではないこちらとしてはもう十分すぎるインパクトではある。
それだけに惹かれる作家ではあるのだが、結局、SF畑の人ということで今までは決して良い読者ではなかった。かろうじて『きみの血を』と『盤面の敵』、そして短編をいくつか読んだきり。しかし、今回の『海を失った男』は何といっても晶文社ミステリの一冊である。『きみの血を』でもミステリっぽい味付けがなされていたことから、期待するなという方が無理な話だ。
The Music「ミュージック」
Bianca's Hands「ビアンカの手」
Maturity「成熟」
It Wasn't Syzygy「シジジイじゃない」
Rule of Three「三の法則」
...And My Fear Is Great...「そして私のおそれはつのる」
The Graveyard Reader「墓読み」
The Man Who Lost the Sea「海を失った男」
実に面白い。特に気に入ったのは「ビアンカの手」や「成熟」、「そして私のおそれはつのる」、「墓読み」など。まさに宝石のような作品集である。
感心したのは、テーマの掘り下げとその展開である。かなりの作品に共通していると思うのだが、ミステリ畑の多くの作家のそれとは違い、スタージョンは明らかに単なる娯楽以外の部分を視野に入れている。もちろんそれは人間を描くことに他ならないのだが、単に思想を語るのではなく、SF的手法を巧みに利用してトリッキーなテーマのアクロバットを見せるところがすごい。
例えば「そして私のおそれはつのる」では、老婆とチンピラの交流を描く。老婆は実は選ばれた人間であり、超能力を使うことができるのだが、隠された資質をチンピラに見いだし、そのチンピラを覚醒&更正させようとするのだ。ここまでは実にありがちな設定で、何となく先の予想もつく。ところがここでスタージョンはチンピラの恋人を登場させ、まったく予想だにしない展開を披露する。ネタバレにしたくないのでここでは書かないが、この短編を読み終えたときはもう開いた口がふさがらなかった。個人的にはこれがベストだ。
なお、近々、河出書房新社から『不思議のひと触れ』というタイトルで、よりSF色の強い短編集も出るらしい。これも買わなきゃ。
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