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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


三橋一夫『腹話術師』(出版芸術社)

 三橋一夫の『腹話術師』を読む。
 かつて春陽文庫で刊行された「ふしぎなふしぎな物語」全四巻に十三篇を追加し、「三橋一夫ふしぎ小説集成」全三巻として再編集されたうちの第一巻目である。刊行されてからもう一年半ぐらい経っているので、そろそろ当時の感動も薄れてきているが、この本が出ると聞いたときはさすがに耳を疑ったものだ。なんせネットオークションに出ると文庫一冊に数千円の値がすぐについてしまうほどの人気作品である。それが作品数を増補して刊行されるというのだから、これを買わないで何を買うのか。
 一応、国書刊行会からも傑作選の『勇士カリガッチ博士』が出ており、これはこれでありがたかったが、いかんせん収録数が少ない。それどころか下手に『勇士カリガッチ博士』を読んでしまうと、他の作品も読みたくなることは請け合いで、そういうジレンマに多くのファンがもだえ苦しんでいたに違いない。それだけに「三橋一夫ふしぎ小説集成」全三巻の刊行のニュースは、日本の悩める探偵小説マニアを狂喜乱舞させたといっても過言ではない、いや過言か(笑)。
「腹話術師」
「猫柳の下にて」
「久遠寺の木像」
「トーガの星」
「勇士カリガッチ博士」
「白の昇天」
「脳味噌製造人」
「招く不思議な木」
「級友「でっぽ」」
「私と私」
「まぼろし部落」
「達磨あざ」
「ばおばぶの森の彼方」
「島底」「鏡の中の人生」
「駒形通り」
「親友トクロポント氏」
「死の一夜」
「歌奴」
「泥的」
「帰郷」
「人相観」
「戸田良彦」

 以上が収録作。テイストは「奇妙な味」というよりも幻想小説に近いが、怖い話もあればハートウォーミングな話もあるといった具合で、意外に内容はバラエティーに富んでいる。しかしどの作品にも三橋一夫的な味わいがあることは確かで、同じ幻想小説の書き手でも、城昌幸や日影丈吉とは趣もずいぶん違っており、ひとくくりに出来ない強いオリジナリティがうかがえる。また、作品毎にあまり出来不出来の差がないのも大きい。
 しかし悲しいかな、これだけの作品を残しながら、よほどの探偵小説マニアでもないかぎり三橋一夫の名は知られていないのが現実だ。もし機会があれば立ち読みでもいい。まずは一篇でも読んでみることをお勧めする。

 なお、三橋一夫には明朗小説作家という側面もまたあるのだが、それはまた別の機会に。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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