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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


エリック・ガルシア『鉤爪プレイバック』(ヴィレッジブックス)

 神保町の古本祭りが始まる。とりあえず昼食時に急いで見て回るが、時間がないうえに人が多すぎてだめだめ。

 本日の読了本はエリック・ガルシアの『鉤爪プレイバック』。恐竜探偵という、これ以上ないほど強烈な個性を持って登場したヴィンセント・ルビオ・シリーズの第二弾である。
 一作目の『さらば愛しき鉤爪』はとにかくインパクトがあった。人間に扮装して独自の恐竜社会を構築している恐竜たちの生活、その中で私立探偵を営む主人公ルビオのハードボイルド的生き様、そして恐竜社会ならではの世界観や特性を逆手にとったプロット&トリック。ゲテモノではあるが、どれをとってもサービス満点の超エンターテインメントだった。
 そして本作はシリーズ作とはいうものの、前作の前日談という形をとる。

 ロサンジェルスで探偵を営むヴィンセント・ルビオと相棒のアーニー。二人はアーニーの元妻から、弟のルパートが恐竜社会で密かに浸透しつつあるカルト教団「祖竜教会」に入信したらしく、なんとか脱会させてほしいと頼まれる。
 「祖竜教会」とは、人間社会にまぎれて暮らすのではなく、太古の恐竜らしい生活に戻るべきだと主張する教団。二人はどうにかこうにかルパートの身柄を奪い返し、高名な精神科医(もちろん彼も恐竜)にマインドコントロールを解いてもらうことにも成功。ところがほっとしたのも束の間、その三日後にルパートは……。

 恐竜社会の描き方や恐竜たちの暮らしぶりがとにかく巧みに、そしてコミカルに描けているので、それだけでも十分楽しめる作品。将来はわからないが、まだ二作目だけに新鮮さは失われてはいない。
 ただ、前作はこの設定を見事なまでに生かし切った謎解きも見事であった。極論を言えば、一作目でこれをやっちゃあ、二作目は絶対に一作目を超えられないだろうなぁという危惧があった。で、結論から言うと、やはりそれは当たっている。
 だが、だからといって本作がつまんないかというと決してそんなことはない。作者もそれぐらいは先刻ご承知らしく、謎解きという切り口をばっさり捨てて、本作ではアクションに比重を置いて物語を描いている。
 また、前作にあった暗い部分を、かなり減らしているのもおそらく計算尽くであろう。そもそも本作でルビオと相棒を組むアーニーは、前作ではすでに謎の死を遂げており、それがルビオの生き方を大きく変えてしまっているという背景があった。そのアーニーがまだぴんぴんしている時代の話だから、ルビオもすこぶる陽気だし、しかもアーニーがこれまた陽性なので、二人の掛け合いが実に楽しい。
 そんなこんなでやや趣を変えて現れた『鉤爪プレイバック』。前作とまではいかないが、これも十分読ませる作品となっているのである。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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