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福永武彦『加田伶太郎全集』(扶桑社昭和ミステリ秘宝)
で、本日の読了本は福永武彦の『加田伶太郎全集』、扶桑社文庫版である。
過去に出版された講談社版、桃源社版、新潮社版すべてに収録された序文やエッセイなども掲載し、その他のSFなどの著作もまとめた決定版で、まことに気合いの入った編集ぶり。いや、すばらしい。
著者の福永武彦氏はご存じのとおり純文学の作家である。探偵小説はまったくの趣味で、それが高じて探偵小説に手を染めたという過去を持つ。それだけに著者の探偵小説に注ぐ愛情や知識は並みではなく、各作品は本格探偵小説の伝統的ルールにのっとって、どれも一定の水準をキープした出来である。
しかし、感心はするのだが、小説として意外とこちらに残るものは少ない。単純にパズラーを読みたいというのなら全く裏切られることはないのだが、いかんせんコクがない。これはおそらく、著者の探偵小説に対する「探偵小説は決して文学ではない」という考え方にも起因しているようにも思われる。
実際、読んでみて印象に残ったのは「電話事件」「眠りの誘惑」「湖畔事件」といったところで、これらの作品も論理を追求してはいるものの、余韻や味わいという点で著者自信が気に入っている「完全犯罪」などよりも上ではないかと思う。本格探偵小説だから論理性や謎解きはもちろん重要だが、それだけではやはり成り立たない。名作と謳われ、読み継がれている作品は、みなそれ以上の何かを備えているはずだと思うのだが。
Comments
というわけで読んでみました。
まことに面白かったです。どうせ日本の純文学作家の余技だろうと思っていましたが、その質の高さには瞠目させられました。
純然たるパズラーのほうが好みに合っているのか、わたしとしては8篇のうち、後半の作品よりも前半の作品のほうが面白かったです。特にお気に入りなのは「完全犯罪」と「温室事件」ですね。
いわゆる「歴史に残る」タイプの作品ではありませんが、「うれしい佳作」であることは確かで、福永氏としてもそういう評価のほうが嬉しかったのではないでしょうか。
併録のSF小説は……同時代の海外SFと比べると、凡庸さは否めませんね。今日泊亜蘭氏の「光の塔」の4年前の作品と考えると、その質の高さは驚異的なものがありますが、今となっては骨董的価値しかありません。SFの常ですが。果たして「光の塔」と比べてどれほどのものだったのかを検討するうえでも、完成版が読みたかったのは事実ですが、たぶん「光の塔」にはイマジネーションの点で遠く及ばない、というところに落ち着いたのではと思われます。
でも全般的に満足した読書体験でありました。
最近(でもないか)の作品ですが、松尾由美「安楽椅子探偵アーチー」を読みました。ほのぼの系のファンタジーですので、寝転がって読むには最適です。もちろん本格推理であることはいうまでもありません。面白かったなあ。
Posted at 21:42 on 06 02, 2009 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
おっと、意見が割れましたね(笑)。
私は純文作家であろうが、ミステリプロパーであろうが、本格をパズルみたいなもんだと割り切られすぎると、けっこうムッとして評価が辛くなります。私はミステリをまずは小説として読みたいのであって、クイズにしてほしくないって気持ちがあるんですね。
まあクイズ臭が強くても、小説の上手い作家はまだいいんです。ただ、こういうタイプの作家は得てして虚構の認識自体が甘かったりもするので、まあそういうときはイライラしながら読んでおります(笑)。
Posted at 04:37 on 06 03, 2009 by sugata