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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


城昌幸『百鬼夜行(下)若さま侍捕物手帖』(光文社文庫)

 捕物帖とはつくづく不思議なジャンルである。結局は、様々な事件に巻き込まれた主人公が事件を解決するという形態をもつ、時代小説の一様式であることには間違いない。だが、共通するのはそこしかないようにも思う。
 というのも、興味の対象が、作家によってまったくバラバラだからである。そのなかでも比較的よく見られるのは、まず探偵小説的なもの。横溝正史の人形佐七などがその代表だろうが、これらは日本だからこそ捕物帖と呼ばれるものの、外国人から見れば立派な歴史ミステリと言うこともできる。
 また、事件の謎が興味の中心ではなく、その登場人物たちの心の機微などを描くことに主眼を置いた人情物と呼ばれるものも多い。さしずめ野村胡堂の銭形平次などはこの部類だろう。さらにまったくの私見だが、岡本綺堂の半七捕物帖などは、江戸の風物誌という読み方もできる。
 そして最後が伝奇小説的なもの。SFといってもよいぐらい突飛なものから、あくまで超常現象などは扱わず、リアルな世界観のなかで勝負するものまで幅も広い。
 とまあ、捕物帖に詳しくない私が思いつくままに書いただけでも、これぐらいの差があるわけだが、これらをすべて捕物帖という括りで語るのはどだい無理があるのだ。

 なんでこんなことを書いたかというと、若さま侍シリーズの最後の長編?『百鬼夜行』を読み終えたからだ。
 そもそも若さま侍シリーズも最初は探偵小説的に読み始めたのだが、いくつか読み進むうち、どうやらこのシリーズには大きく分けて探偵小説的なものと伝奇小説的なものの2種類あることに気がついたのだ。実は先日読んだ学研M文庫刊行の『永遠の伝奇小説BEST1000』でも、若さま侍シリーズを伝奇小説として紹介した一文を発見し、ああ、やはりそうだったのかと一人で納得したものである。
 まだまだ未読の長編が残っているので、どちらがメインかはおいおい見えてくるだろうが、途中まで伝奇小説か探偵小説かハッキリしないというのは、なかなか気持ち悪いものである。

 『百鬼夜行』も出だしは人捜しから始まるため、おお、今回はハードボイルドの手法できたか、とまではさすがに思わなかったが、それでも探偵小説っぽい導入部ではある。しかし、すぐに事件の中心は太田道灌の隠し財宝であることがわかり、あとは多くの一味や登場人物が錯綜する一大伝奇小説へと発展する。
 下巻のラストでは、からくり屋敷を舞台に壮絶なクライマックスを迎えるとともに、数々の謎も解かれるという、実に贅沢な内容となっているのだ。ああ、何と今回は、探偵ものと伝奇ものをミックスした作品だったのか。
 まさにシリーズ集大成といえる内容。物語の設定や展開も面白いが、とにかく登場するキャラクターが多彩で魅力的だ。恋愛要素もふんだんに盛り込んでおり、これが意外なほど物語にマッチするのも伝奇小説の故か。
 そのおかげで、若さまの影が少々薄いのが不満といえば不満だが、お腹いっぱいになることは保証つき。読後感もさわやかで、捕物帖を食わず嫌いしている人にもおすすめできる逸品。おすすめ。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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