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A・E・W・メースン『サハラに舞う羽根』(創元推理文庫)
以前に小学館から出ていた『四枚の羽根』が、創元推理文庫から『サハラに舞う羽根』として出版された(ついでに角川文庫からも出た模様)。『四枚の羽根』を既に買っている身としては、読む前に文庫化されるのが一番がっくり来るパターンではあるが、創元版は初の完訳という謳い文句までついている始末。じゃあ何かい、私が買ってた『四枚の羽根』は抄訳なのかい? 仕方ないので結局創元版も買って、一気に読んでしまう。
さて、『サハラに舞う羽根』だが、作者はミステリの古典として名高い『矢の家』を書いたA・E・W・メースン。本来は探偵小説だけではなく、冒険小説も数多く書いた人で、本国などでは『矢の家』より『サハラに舞う羽根』の方が有名らしい。
これはもう英国人の傾向というか伝統でもでもあろうが、根っから冒険小説が好きなのであろう。それこそ海洋ものから軍事ものまで、著名な冒険小説作家は山ほどいるし、かのコナン・ドイルだって本当は歴史冒険小説が一番書きたかったというほどだ。まあ、ドイルは実際何冊もその手のものも書いているし、ホームズ譚にも冒険小説のテイストはたっぷり盛り込まれている。さらにはガチガチの本格探偵小説を書く人、例えばクロフツあたりでも、けっこう冒険小説の風味を作中に盛り込んでいることが多い。
したがってメースンの場合も異色作として読むのではなく、あくまで本業として捉えるのが筋なのだろう。
こんな話。舞台は十九世紀後半のイギリス。厳格な軍人の家庭に育ったハリーだが、実は母親の繊細な感受性を受け継いだ心優しき青年。しかし、父の手前もあって軍隊に入隊することになり、今では立派な青年将校へと成長した。
そんなある日、ハリーは内乱が勃発したスーダンへの招集を受けるが、恐怖心と婚約者への思いから任務を逃れてしまう。これを知った三人の友人たちは、ハリーのもとへ「臆病者」を意味する白い羽根を送りつける。さらにそれを知った婚約者からも四枚目の羽根を渡されたハリーは、失意の下に身を隠す。
だが、それは逃げたわけではなかった。汚名返上のため、ハリーは密かにある決意を固めていたのだ。
いやいや、これは予想以上にきっちりまとまった冒険小説で、読んでいる間はなかなか楽しめた。冒険と名誉、友情と恋愛……冒険小説に必要な要素を過不足なく揃え、決して短くない話を一気に読ませてくれる。主人公をあえて前面に出さない手法も効果的で、主人公の行動を各人が伝え、あるいは考えることによって、物語に奥行きを与えることに成功していると思う。
ただし、それはあくまで奥行きであり、深みではない。というのも、けっこう淡泊なのだ、印象が。基本的に登場人物に悪人がいないことや、思ったほどアクションシーンが多くないことも多少影響しているだろう。物語そのものはけっこう起伏もあるのだけれど、お約束のとおりに話が進みすぎているきらいもある。時代のせい、もしくは筆力、と片づけられないこともないが、それだけではない何かが欠けている、そんな物足りなさを併せ持つ作品でもある。
ちなみに本書は過去に何度も映画化されており、この秋もロードショーでリメイク版が公開されるとのこと。これは観ておこうかな。
さて、『サハラに舞う羽根』だが、作者はミステリの古典として名高い『矢の家』を書いたA・E・W・メースン。本来は探偵小説だけではなく、冒険小説も数多く書いた人で、本国などでは『矢の家』より『サハラに舞う羽根』の方が有名らしい。
これはもう英国人の傾向というか伝統でもでもあろうが、根っから冒険小説が好きなのであろう。それこそ海洋ものから軍事ものまで、著名な冒険小説作家は山ほどいるし、かのコナン・ドイルだって本当は歴史冒険小説が一番書きたかったというほどだ。まあ、ドイルは実際何冊もその手のものも書いているし、ホームズ譚にも冒険小説のテイストはたっぷり盛り込まれている。さらにはガチガチの本格探偵小説を書く人、例えばクロフツあたりでも、けっこう冒険小説の風味を作中に盛り込んでいることが多い。
したがってメースンの場合も異色作として読むのではなく、あくまで本業として捉えるのが筋なのだろう。
こんな話。舞台は十九世紀後半のイギリス。厳格な軍人の家庭に育ったハリーだが、実は母親の繊細な感受性を受け継いだ心優しき青年。しかし、父の手前もあって軍隊に入隊することになり、今では立派な青年将校へと成長した。
そんなある日、ハリーは内乱が勃発したスーダンへの招集を受けるが、恐怖心と婚約者への思いから任務を逃れてしまう。これを知った三人の友人たちは、ハリーのもとへ「臆病者」を意味する白い羽根を送りつける。さらにそれを知った婚約者からも四枚目の羽根を渡されたハリーは、失意の下に身を隠す。
だが、それは逃げたわけではなかった。汚名返上のため、ハリーは密かにある決意を固めていたのだ。
いやいや、これは予想以上にきっちりまとまった冒険小説で、読んでいる間はなかなか楽しめた。冒険と名誉、友情と恋愛……冒険小説に必要な要素を過不足なく揃え、決して短くない話を一気に読ませてくれる。主人公をあえて前面に出さない手法も効果的で、主人公の行動を各人が伝え、あるいは考えることによって、物語に奥行きを与えることに成功していると思う。
ただし、それはあくまで奥行きであり、深みではない。というのも、けっこう淡泊なのだ、印象が。基本的に登場人物に悪人がいないことや、思ったほどアクションシーンが多くないことも多少影響しているだろう。物語そのものはけっこう起伏もあるのだけれど、お約束のとおりに話が進みすぎているきらいもある。時代のせい、もしくは筆力、と片づけられないこともないが、それだけではない何かが欠けている、そんな物足りなさを併せ持つ作品でもある。
ちなみに本書は過去に何度も映画化されており、この秋もロードショーでリメイク版が公開されるとのこと。これは観ておこうかな。
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