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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


コリア・ヤング『トッド調書』(ハヤカワミステリ)

 複数のペンネームを持つ作家は別に珍しくもない。例えばウイリアム・アイリッシュとコーネル・ウールリッチ、エド・マクベインとエヴァン・ハンター、ディクスン・カーとカーター・ディクスンとか。これら御大になるとどちらの名義も有名で、複数のペンネームを持っていること自体はほとんど気にならない。知らない方が悪いってなもんである。
 また、メインの名義は知られていても、他方の名義が知られていない場合もある。エラリー・クイーンとバーナビー・ロス、スティーヴン・キングとリチャード・バックマン、マイクル・クライトンとジョン・ラングとか。こういう場合は、出版当時に何らかの事情(契約とか)があったり、売れない頃なので心機一転をはかったりとかとか、という理由が多い。なのでたいてい再刊されるときには有名なペンネームの方に一本化されたりする。出世魚みたいなもんか(笑)。まあ、翻訳ものになると最初から有名な名義で出版されたりするので、あまり苦労はないのだが、たまには例外もある。
 それが本日読んだコリア・ヤングの『トッド調書』。もちろんファンなら知っているだろうが、これはホラーの大御所、ロバート・ブロックの別名義なのだ。

 世界でも有数の大富豪、ホリス・トッドは心臓の病に蝕まれていた。以前から予定されていた心臓移植手術だが、ここにきて容態は急激に悪化し、一刻を争う状態である。折しもトッドと血液型の合う婦人が危篤にあるという情報が入り、トッドたちは病院のあるロサンゼルス行きを準備する。しかし、直前に家族が宗教上の理由から心臓提供を断り、望みは絶たれたかに思われた。それでもトッドは最後の運を賭け、手術準備の整うロサンゼルスへ飛んだ。
 賭は成功した。タイミング良く、トッドたちがロサンゼルスに向かったその日、ある青年が交通事故死し、その心臓が提供されたのである。この見事なまでの符号に、手術チームの一員、エベレット博士が疑念を強めていった……。

 今ではまったく使われていないペンネーム、しかもブロック名義とは全然作風の異なる医学ミステリ、おまけに全編、書簡や尋問記録といった構成をとっているので、一読してもこれがブロックの作品とはにわかに信じがたい。ホントにこんなものを書いていたんだ、という驚きばかりが先にたつ。
 出来そのものはそれほど悪くない。だが事件や謎そのものはそれほど深くもないので、ミステリとしては人におすすめできるほどではないだろう。ただ、ドキュメンタリータッチで社会問題や医療倫理を取り扱う様がなかなか堂に入っており、読み物としてはそれなりに退屈せずに読めた。
 肝は何と言っても、主人公エベレット博士と裏の主人公ともいえるホリス・トッドの対比にあるのだが、お互いの価値観をぶつけあうような対決シーンがなくて、そこが物足りないのは残念。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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