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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


岡本綺堂『半七捕物帳』(講談社大衆文学館)

 前々から噂にはなっていた光文社文庫による「江戸川乱歩全集」が八月から本当にスタートするらしい。講談社文庫の江戸川乱歩推理文庫完集にリーチがかかっている身としてはけっこう辛いものがある(苦笑)。
 小説の類は春陽文庫や創元推理文庫が現役だし、だいたい読めるわけだから、要はこれまでにいろいろあった江戸川乱歩全集と比べてどれだけの付加価値があるかってことになると思うのだが、その辺はどうなのかな?

 ところで本日の読了本は岡本綺堂の『半七捕物帳』。講談社大衆文学館版である。
 ネームバリューやファンの多さでは、管理人お気に入りの「若さま侍」を遙かに凌駕すると思われる「半七捕物帳」シリーズ。しかもまたの名を「お江戸のシャーロック・ホームズ」。期待するなという方が無理な話だ。

 しかし、いざこうして一冊を読み終えてみると、どうにもピンと来ない。これはいったいどうしたことだ?
 面白いことは面白い。江戸の風俗が物語と見事に融合し、独特の味わいをもたらす。会話を多用した文章も読みやすく、テンポも良い。いい読書をしたという満足感は確かにあるのだ。でも何かが違う。
 結局それらの満足感は、あくまで江戸という舞台、江戸という時代に関する興味から生まれたものなのだろう。要は歴史をテーマにした大衆小説的な面白さなのである。ミステリのそれとは明らかに違う。正直、もっとミステリっぽいものを期待していただけに、なんだか肩すかしを食ったような印象だ。
 「若さま侍」だって言うほどミステリ味が強いわけではないが、けれん味でピシッと決めるところは決める。対して「半七捕物帳」は事件が解決する過程で読者が置いてきぼりをくわされることが多く、その後に事件の背景がまったりと語られるパターンが多い。この構成もマイナス要因のひとつだろう。
 さりとて本格的な探偵小説でないからといって、つまらないわけでは決してない。ここが難しくもあり困るところでもある。個人的にはハードボイルドなども味わいだけで高く評価するときもあるので、「半七捕物帳」にしたって高く評価してもよさそうなものだ。でも明らかに「若さま侍」の持つミステリ的味付けは、私のなかでスタンダードになりつつあるため、方向性が微妙にずれると違和感ばかりが先に立つ。
 とにかくもう少し読み込んでみないとだめかも。

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Comments

Edit

ポール・ブリッツさん

やはり天才といっていい存在ですよね。およそ百年近く前に書かれた作品が、いまだに多くの人に訴える力を持っています(つい最近でも小学館文庫で『岡本綺堂 怪談選集』 なんてのも出ましたね)。上手い人は何を書かせても上手い。ストーリーテリング、文章、どれも一級品です。だからこそ、もっと強く意識して探偵小説を書いてもらいたかったなぁという気持ちも実はあるのですが。

Posted at 21:29 on 07 12, 2009  by sugata

Edit

「半七捕物帳」読んでみました。光文社文庫の(一)を読んだだけですが。
ムチャクチャ面白いではないですか。
確かに、探偵小説としては弱いところがありますけど、大正にこれだけの作品が作れたというのはまさに奇跡であります。
自作の探偵小説としての弱さは、綺堂も承知していたと思います。それでもなお、ミステリとして結構の整った作品を書こうという綺堂の態度はミステリファンとして見習うべきであろうと思います。
とにかく、ほかに名探偵が誰一人いない中、初めて日本オリジナルのシリーズ名探偵を生み出し、それが未だに古びていない名品であったというのはミステリ界における最大級の喜びでありましょう。
少なくとも、わたしには怪奇小説よりはこちらのほうが好みでありました。
続きも読むぞ~♪

それにしても、西洋の名探偵の第一号であるポーのデュパンと、日本の名探偵の第一号である半七が、それぞれデビュー作において「本格ミステリでそれをやっちゃまずいだろ」みたいなトリックと対面しているというのは、ちょっと面白いですね。

Posted at 16:09 on 07 12, 2009  by ポール・ブリッツ

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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