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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


黒岩涙香『黒岩涙香探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)

 論創ミステリ叢書から『黒岩涙香探偵小説選I』を読了。涙香の唯一の短編集である『涙香集』を丸ごと収録し、それに日本で初めて書かれた創作探偵小説(たぶん)として知られる「無惨」を加えたものだ。収録作は以下のとおり。

「無惨」
『涙香集』
「金剛石の指環」
「恐ろしき五分間」
「婚姻」
「紳士三人」
「電気」
「生命保険」
「探偵」
「広告」

 黒岩涙香といえば言うまでもない日本探偵小説の父なわけだが、世界探偵小説の父、ポーに比べると現代ではまったく読まれなくなった作家である。今では流行らない翻案というスタイル、読みにくい文語体など、原因はいろいろあるだろうが、仮にも一世を風靡した大衆作家、そして何より日本の探偵小説史に偉大なる1ページを記した人の作品が、人気がないとはいえ、今の時代ほとんんど読めないというのはいかがなものか。それだけに近年に出たちくま文庫の作品集、そして論創社から出た本書はなかなか貴重な仕事であろう(あと現役本では創元推理文庫の『日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎 集』ぐらいか?)。
 「無惨」は著者の作品の中でも論理を前面に押し出した本格風の探偵小説で、当時はあまり評判がよろしくなかったらしい。だが編者も書いているように、この時代に本格(らしきもの)を書いたという事実だけでも素晴らしいではないか。なんせ書かれたのが1889年。ほぼホームズと同時期だ。そして何より本作が重要なのは、テーマが「捜査の方法」にあること。決して人情話や事件の煽情性などではないのである。二人の刑事による新旧の捜査対決は今読んでも普通に面白く、やはりマニアなら一度は読んでおきたい作品だ。
 だが残念ながら、その他の作品はそこまでミステリ色は強くない。短い小咄的なものがほとんどであり、唯一の例外は「生命保険」。これはゴシック・サスペンス風でミステリ的風味が強く、そこそこ楽しく読めた。だが、やはり涙香の神髄を味わおうと思ったら、本当は長篇なのだろうな。

 ちなみに論創ミステリ叢書の判型や造本は決して嫌いじゃないのだが、持ち歩くにはどうしても躊躇してしまう。論創ミステリ叢書も論創海外ミステリも全部買っているのだが、通勤のお伴は海外ものばかりで、論創ミステリ叢書はほとんど積ん読状態である。そろそろ読み倒していかなければ。

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Comments

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Sphereさん

『灰色の女』はいつ読もうかと考え中です。『幽霊塔』の涙香版は読みましたが、乱歩版も読みたいですし、かといって同じ話を何度も読むのもこれはまた辛そう。悩ましいです。

Twitterの返事をここで書くのもなんですが、確かに函館は孤立しやすいですね。これはこれで不安です。
とにかく今回は津波の怖さを思い知りました。

Posted at 21:49 on 03 13, 2011  by sugata

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「幽霊塔」と「灰色の女」を読み比べてみようと思って、ちくま文庫じゃなく間違ってこっちを借りてきてしまいました(;_;)
でもなかなか面白かったです。「探偵」なんて角田喜久雄の連載スリラーみたいな感じで、久しぶりにこういうの読むなぁと思って。
でも「無惨」を除けば、ミステリっぽいのはやはり「生命保険」でしょうかね。
気を取り直して次は『灰色の女』にいきます…

Posted at 20:11 on 03 13, 2011  by Sphere

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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