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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジム・トンプスン『死ぬほどいい女』(扶桑社)

 やはり今ノワールと言われている作品とは全然別物という気がする。本日読了したジム・トンプスンの『死ぬほどいい女』の話である(といっても最近の新しい「ノワール」ってほとんど読んでないんだけど)。

 本作もこれまで訳された作品同様、とりたてて際だったストーリーがあるわけではない。冴えない訪問販売員の主人公が、死ぬほどいい女と知り合ったがために、転落の一途を辿る道筋を適当に綴っていく物語だ。いい加減な思想、行き当たりばったりの人生、雑な犯罪計画……その根っこにあるはずの欲望ですら筋が通っているわけではない。そんな男が読者にどんな感銘を与えられるというのか?
 しかし、これがそんじょそこらの小説など、束になっても叶わないほど強烈なインパクトを持って訴えてくるのだから痛快である。

 解説でも触れられているが、トンプスンの作品は特に大きな動きがあるわけではないのに、すごい疾走感がある。これが物語の展開による疾走感ではなく、主人公の脳内を描写する疾走感というのは言い得て妙。
 しかもその疾走感が徐々にコースを外れていく気持ち良さ&悪さ。主人公が行き場の無さから逃げ出すため、もがき苦しみ、ふと気がつくと犯罪に手を染める。そしてそれが雑な計画なのにもかかわらず、自分では夢を実現したと喜ぶ一瞬のはかなさ。そんな犯罪が上手くいくはずもなく、主人公は一気に地獄へ向けてスパートする。そして待ち受ける狂気。うまい。うますぎる。

 トンプスンがこの絶妙なバランスの上に立っている小説を、どこまで意識して書いていたのかは知るよしもない。もし、これが喰うために書き散らかしていたのだとすれば、もう彼は天才以外の何物でもない。あるいは?
 トンプスンの小説の欠点はただひとつ。この次に読む小説が、とてつもなく浅いものにしか感じられないことであろう。ほんと、明日はいったい何を読めばいいのだ?

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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