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ジェフリー・ハウスホールド『追われる男』(創元推理文庫)
本格探偵小説の本場というとやはり英国が頭に浮かぶが、対極にある冒険小説もまた英国が本場である。本日の読了本はそんな英国冒険小説の古典として名高いジェフリー・ハウスホールドの『追われる男』。
ストーリーはいたってシンプルだ。要人暗殺の廉で逮捕されたある男が、過酷な拷問を受けるものの脱出に成功。追っ手を振りきってイギリスに帰ってきたのはよいが、執拗な追求の手は依然として止まらない。男はイングランド南部へと身を隠し、追っ手をかわそうとするが……。
まずは冒険小説として十分に堪能できる傑作だろう。主人公が見せる知力、試される勇気、個性的な敵役、スポーツマン精神にのっとった対決など、冒険小説に必須とされる要素は十分に盛り込まれており、過不足のない心理描写も巧いと思う。
ただ、それだけでは本書を評価するには言葉が足りないだろう。『追われる男』はただの冒険小説と決定的に違う何かがある。
本書は主人公の手記という形をとっており、物語のほとんどが主人公の逃避行を描写してゆく。正統派冒険小説の古典とはいうものの、かなり独特の雰囲気をもった作品なのだ。
例えば同じ話を書いても、現代の作家ならたくさんの横糸を張り巡らし、世界をもっと膨らませようとしたりもするのだろうが、著者のハウスホールドは本当に逃避行に絞って書いている。それがかえってストレートな冒険小説であることを忘れてしまうほどだ。主人公はなぜ手記を書いているのか、なぜ自分自身のことを書こうとしないのか、なぜ守るべき地位がありながら暗殺を実行しようとしたのか、なぜ無理に逃げ続けようとするのか。これらの疑問が読み進むうちに少しずつ読者の胸に芽生えてくる。
そしてそれらの答は最後の最後で明かされる。その結末を読んだとき、素晴らしい冒険小説を読んだという感慨と同時に、これは本当に冒険小説だったのか、という不思議な気持ちに襲われる。深い。なんとも深い小説である。
ストーリーはいたってシンプルだ。要人暗殺の廉で逮捕されたある男が、過酷な拷問を受けるものの脱出に成功。追っ手を振りきってイギリスに帰ってきたのはよいが、執拗な追求の手は依然として止まらない。男はイングランド南部へと身を隠し、追っ手をかわそうとするが……。
まずは冒険小説として十分に堪能できる傑作だろう。主人公が見せる知力、試される勇気、個性的な敵役、スポーツマン精神にのっとった対決など、冒険小説に必須とされる要素は十分に盛り込まれており、過不足のない心理描写も巧いと思う。
ただ、それだけでは本書を評価するには言葉が足りないだろう。『追われる男』はただの冒険小説と決定的に違う何かがある。
本書は主人公の手記という形をとっており、物語のほとんどが主人公の逃避行を描写してゆく。正統派冒険小説の古典とはいうものの、かなり独特の雰囲気をもった作品なのだ。
例えば同じ話を書いても、現代の作家ならたくさんの横糸を張り巡らし、世界をもっと膨らませようとしたりもするのだろうが、著者のハウスホールドは本当に逃避行に絞って書いている。それがかえってストレートな冒険小説であることを忘れてしまうほどだ。主人公はなぜ手記を書いているのか、なぜ自分自身のことを書こうとしないのか、なぜ守るべき地位がありながら暗殺を実行しようとしたのか、なぜ無理に逃げ続けようとするのか。これらの疑問が読み進むうちに少しずつ読者の胸に芽生えてくる。
そしてそれらの答は最後の最後で明かされる。その結末を読んだとき、素晴らしい冒険小説を読んだという感慨と同時に、これは本当に冒険小説だったのか、という不思議な気持ちに襲われる。深い。なんとも深い小説である。
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