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 エジンバラを舞台に描く、一匹狼の刑事ジョン・リーバスの活躍。こう書いてしまうと陳腐だが、イアン・ランキンが書き続けているこのリーバス・シリーズは、どれも一定の水準をクリアしており、警察小説やハードボイルドのファンならいまや安心して楽しめるシリーズになった感がある。
 作者によると、この一連の物語はリーバスがエジンバラという土地とどう折り合いをつけていくか、というテーマで書かれているらしいが、もちろんそれだけではない。リーバスと酒との折り合い、警察内の同僚や上司との折り合い、恋人との折り合い、犯罪との折り合い……とにかくさまざまな読み方が可能で、そのどれもがメインテーマになるだけの深みをもった物語なのである。いまこの水準に達しているハードボイルド系のシリーズは、ローレンス・ブロック書くところのマット・スカダー・シリーズかマイクル・コナリーのボッシュ・シリーズぐらいではなかろうか。
 そういうわけで本日の読了本はイアン・ランキンの『滝』。

 幕開けは女子大生の失踪事件。銀行家の娘フリップが謎の失踪を遂げ、リーバス警部らが捜査を開始するが、手がかりらしい手がかりはつかめない。やがてクイズマスターと名乗る人物が、彼女とEメールで接触していたらしいことをつかみ、同僚のシボーン刑事がメールでゲームマスターとの対決を開始した。一方、リーバスはフリップの実家近くで発見された、人形を入れた柩に注目する。はるか以前に起きた連続殺人で、同じように柩が発見されていたのだ。警察内部の醜聞や軋轢も重なるなか、捜査は困難を窮めてゆく……。

 期待を裏切らない面白さ。登場人物も限られているので、かなり犯人も絞られてくるが、半歩ほど読者の先をいく感じがほどよい。ゲームマスターとの対決を続けるシボーン、人形の謎を追うリーバスという、2つの流れを融合させる技術もさすがである。ただしゲームネタについてはエジンバラについての知識などが必要なので、日本人読者には敷居が高すぎます(苦笑)。でもこの雰囲気は悪くない。

 だが、やはり読みどころはリーバスを中心とした人々のドラマだろう。それがいいことなのか悪いことなのか。シリーズものにありがちだが、事件そのものより主人公の生き方により興味が移ってしまうのである。本シリーズもそれは避けようがなく、メールによるゲームでの闘いや怪奇趣味など事件の設定も面白いのだが、どうしても人間ドラマの方に気が向いてしまう。
 本作でも元恋人で上司のジルや、部下のエレン、シボーン、グラント、そしてジーンという新たな恋人に至るまで、さまざまな人間を巻き込み、丹念にドラマが描かれる。もちろんリーバスも御同様。ただし、事件との絡め方は自然で、キャラクターだけで読ませる小説とは一線を画しているのでご心配なく。

 ところで初登場時に比べると、リーバスもずいぶん丸くなった感じもする。それこそエジンバラとの折り合いをうまくつけている証拠なのだろう。ただ、そうなると逆に気になるのは翻訳されていないシリーズの初期作品。作品の質や営業的なこともあるだろうが、ここはぜひ早川書房にがんばってもらって全冊出してもらいたいのだが。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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