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グラディス・ミッチェル『ソルトマーシュの殺人』(国書刊行会)
ちょい早めに会社をあがって古本屋などをまわって帰宅。本が欲しいというよりストレス発散のために買い漁ってる感じ。といっても大したものはなく、ハヤカワ文庫から出ているハリイ・ケメルマンのスモール・ラビ・シリーズが各50円で全冊揃っていたのでまとめ買いしたぐらい。
帰宅するとヤフオクで落とした香山滋『怪異馬霊教』が届いている。程度はまずまずだが、値段が値段なだけにかなり嬉しい。
本日の読了本はグラディス・ミッチェルの『ソルトマーシュの殺人』。黄金期の終盤に出てきたにもかかわらず、ポケミスの『トム・ブラウンの死体』以外に邦訳がなく、今までほとんど無視されてきた作家である。それだけに水準はイマイチかもという懸念もあったが、バークリーの例もあることだし、ネットではなかなか評判がよろしい。一応は期待半分不安半分で読み始める。
舞台はイギリスの片田舎にあるソルトマーシュ村。クーツ牧師の家で働くメイド、メグの妊娠が騒動の幕開けだった。なんとメグは未婚の母になろうとしていたのだ。父親の名前さえ明かそうとしないメグに、不道徳なことを異常なまでに嫌悪するクーツ夫人の怒りが爆発、メグを家から追い出してしまう。メグは宿屋を経営するローリー氏のもとに預けられ、そこで出産するが、そのくせ赤ん坊の姿を見たものはおらず、父親が誰なのかも相変わらずわからない始末。村に不穏な噂が流れる中、ソルトマーシュでは村祭りが開催された。そしてその夜、メグは何者かに絞殺され、子供も行方不明となってしまう……。
事件の謎を追うのは、たまたま村へ遊びにきていたミセス・ブラッドリー。副牧師のウェルズをワトソン役に騒動の真っ直中へ飛び込んでゆく。
設定を見ればわかるとおり、本作は時代やら当時の状況から察すると、クリスティの『牧師館の殺人』を強く意識した作品と言える。だが、クリスティが英国ののどかな田園風景にも実は邪悪な部分が潜んでいるということを見せてくれたのに対し、本書の作者グラディス・ミッチェルは、イギリスの田園風景を覆うカバーを勢いよく引っぺがして、あからさまに見せる感じである。
オフ・ビートな本格、と評する人がいるように、ストーリーは読者の予想を裏切り、バラバラのエピソードを積み上げる形で進む。登場人物たちもクセのある人物が多く、肝心の探偵役、ミセス・ブラッドリーからしてかなりいかがわしい感じである。小柄でやせぎすで鋭い眼光、まるで魔女かと思われんばかりの風貌、おまけに怪鳥のような雄叫び(高笑い)をあげながら、村人の秘密を暴くのである。こいつは怖い(笑)。
それらの要素が相乗効果を上げているせいか、読者を選ぶ作品、という評価も出ているようだが、いやいや予想以上に読みやすいし、ユーモアもたっぷり、しかも本格ミステリのツボと基本はしっかり押さえており、本格好きなら決して裏切られることはないだろう。むしろこれぐらいエキセントリックな方が、かえって今の時代の読者にも訴えるだけの魅力があるはずだ。
ハッキリ言ってしまうと、動機や殺害方法、犯人などの設定だけを聞くと、恐らく面白そうには思えない。実にまっとうでストレートな犯罪劇なのである(仕掛けはいろいろあるにせよ)。それをここまでの物語に仕立て上げる手腕は実にお見事。最後の1行のインパクトも含めて、これは買い、と書いておきたい。
ちなみに未訳作品が山のようにあるので、それらもぜひぜひ出し続けてもらいたい、そう思わせる1冊である。
帰宅するとヤフオクで落とした香山滋『怪異馬霊教』が届いている。程度はまずまずだが、値段が値段なだけにかなり嬉しい。
本日の読了本はグラディス・ミッチェルの『ソルトマーシュの殺人』。黄金期の終盤に出てきたにもかかわらず、ポケミスの『トム・ブラウンの死体』以外に邦訳がなく、今までほとんど無視されてきた作家である。それだけに水準はイマイチかもという懸念もあったが、バークリーの例もあることだし、ネットではなかなか評判がよろしい。一応は期待半分不安半分で読み始める。
舞台はイギリスの片田舎にあるソルトマーシュ村。クーツ牧師の家で働くメイド、メグの妊娠が騒動の幕開けだった。なんとメグは未婚の母になろうとしていたのだ。父親の名前さえ明かそうとしないメグに、不道徳なことを異常なまでに嫌悪するクーツ夫人の怒りが爆発、メグを家から追い出してしまう。メグは宿屋を経営するローリー氏のもとに預けられ、そこで出産するが、そのくせ赤ん坊の姿を見たものはおらず、父親が誰なのかも相変わらずわからない始末。村に不穏な噂が流れる中、ソルトマーシュでは村祭りが開催された。そしてその夜、メグは何者かに絞殺され、子供も行方不明となってしまう……。
事件の謎を追うのは、たまたま村へ遊びにきていたミセス・ブラッドリー。副牧師のウェルズをワトソン役に騒動の真っ直中へ飛び込んでゆく。
設定を見ればわかるとおり、本作は時代やら当時の状況から察すると、クリスティの『牧師館の殺人』を強く意識した作品と言える。だが、クリスティが英国ののどかな田園風景にも実は邪悪な部分が潜んでいるということを見せてくれたのに対し、本書の作者グラディス・ミッチェルは、イギリスの田園風景を覆うカバーを勢いよく引っぺがして、あからさまに見せる感じである。
オフ・ビートな本格、と評する人がいるように、ストーリーは読者の予想を裏切り、バラバラのエピソードを積み上げる形で進む。登場人物たちもクセのある人物が多く、肝心の探偵役、ミセス・ブラッドリーからしてかなりいかがわしい感じである。小柄でやせぎすで鋭い眼光、まるで魔女かと思われんばかりの風貌、おまけに怪鳥のような雄叫び(高笑い)をあげながら、村人の秘密を暴くのである。こいつは怖い(笑)。
それらの要素が相乗効果を上げているせいか、読者を選ぶ作品、という評価も出ているようだが、いやいや予想以上に読みやすいし、ユーモアもたっぷり、しかも本格ミステリのツボと基本はしっかり押さえており、本格好きなら決して裏切られることはないだろう。むしろこれぐらいエキセントリックな方が、かえって今の時代の読者にも訴えるだけの魅力があるはずだ。
ハッキリ言ってしまうと、動機や殺害方法、犯人などの設定だけを聞くと、恐らく面白そうには思えない。実にまっとうでストレートな犯罪劇なのである(仕掛けはいろいろあるにせよ)。それをここまでの物語に仕立て上げる手腕は実にお見事。最後の1行のインパクトも含めて、これは買い、と書いておきたい。
ちなみに未訳作品が山のようにあるので、それらもぜひぜひ出し続けてもらいたい、そう思わせる1冊である。
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