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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


大坪砂男『天狗』(国書刊行会)

 大坪砂男の『天狗』(国書刊行会)読了。まとまった作品集を読むのは初めてで、過去にはアンソロジーで短編をいくつか読んだことしかない。もともと作品の少ない人で、薔薇十字社と出帆社から出ていた全集も全二巻である。戦後派五人男として活躍を期待されたが、なかでは最も成功しなかった人と言えるだろう(他は香山滋、島田一男、高木彬光、山田風太郎なのだから、相手が悪いっちゃ悪い)。だが数こそ少ないものの、いくつかの作品は日本の探偵小説史に残す価値のあるものだ。まずは収録作から。

「天狗」
「三月十三日午前二時」
「黒子」
「立春大吉」
「涅槃雪」
「死刑」
「暁に祈る」
「密偵の顔」
「零人」
「花売娘」
「髯の美について」
「男井戸女井戸」

 印象に残るのは、やはり「天狗」。犯行動機が綿々と語られる前半から後半の機械トリックの計画、実行、結末に至るまでを、独特の練り込まれた文体で綴る一編で、アンソロジーにも数多く採られた代表作だけのことはある。一種異様なテンポで語られる犯罪物語は、まさに忘れがたい味わいを残す。
 「零人」もよい。香山滋かと思わんばかりの設定で攻めてくる怪しげな植物マニアの話だが、最後は必ず論理の搦め手で落とし前をつけるところが、香山滋とは違うところだ。また、「涅槃雪」も同様の味わいで、個人的にはこれがベスト3。

 管理人にとっての大坪砂男は、この大坪タッチとも言うべき語り口と、犯罪者の心理への執拗なまでのアプローチが大きな比重を占める。その結実が「天狗」なのだ。
 意外なほど多い機械的トリックが作品の価値を危うくしてはいるが、もしミステリにこだわらなかったら、どんな作品を残していただろうか。大坪砂男はミステリを「推理によって、叙情する小説」と定義し、論理することこそを愛していたようなので、そもそもこんな問いかけ自体が無意味なのだが。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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