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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


鮎川哲也『赤い密室』(出版芸術社)

 本日の読了本は鮎川哲也の『赤い密室』(出版芸術社)。鮎川哲也が創り出した名探偵といえば鬼貫警部が有名だが、天才肌の星影龍三を推す人も少なくないはず。本書はその星影龍三ものの全中短編を二冊にまとめたうちの一冊である。収録作は以下のとおり。

「呪縛再現」
「赤い密室」
「黄色い悪魔」
「消えた奇術師」
「妖塔記」
「道化師の檻」

 わりとバランスの悪い短編集といえるだろう。しかし、これは貶してるわけではない。本格ファンなら手にとっておくだけの価値はあるし、「赤い密室」のインパクトは何度読んでも素晴らしい。少なくとも「赤い密室」だけは、ミステリファンをやっているのならとりあえず読んどくべきである。管理人は本格至上主義ではないが、やはりこれは外せない。

 ただ、本書で一番の注目は何といっても「呪縛再現」である。これは『りら荘事件』の原型となった中編だ。だが『りら荘事件』だけではなく、『憎悪の化石』や『朱の絶筆』といった作品のトリックや要素を含み、しかも鬼貫警部と星影龍三が競演するという、実に贅沢な作品なのだ。短編や中編を長篇化するケースは決して少なくないと思うが、改訂前の作品の方が明らかに豪華なのだという滅多にない例である。
 両雄並び立たず、なんて言葉もあるが、作者がこの二人やさまざまなトリックをどう扱ったのか、なかなか興味深いではないか。

 だが結論から言うと、残念ながらそれらが作品の成功につながったとは言い難かった。トリックなどはなかなかのものだが、文章のタッチが前・後半で大きく変わるなど(もちろん作者の意図ではなく)、小説としてのアラがあちらこちらにうかがえるのは正直、読んでいて辛い。後年、『りら荘事件』として甦らせた理由がよくわかる作品である。それでもアユテツファンなら一度は読んでおくべきだろうけど。

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Comments

Edit

いえいえ、こちらこそ楽しませてもらいました。
トルストイやドストエフスキーをちゃんと読んでおられるところなんざ大したものです。
私なんて恥ずかしながらロシアの文豪の作品なんて、ほとんど読んだことがありません。
一度は読もうと思いながら、もうン十年経ってしまったほどで(^_^;)
ではでは今後ともよろしくです。

Posted at 01:01 on 04 19, 2007  by sugata

Edit

sugataさん、こんばんは~v-16
しょうこりもなく(?)おじゃましています^^
ミステリのミもわからない私の文章は恥ずかしいですが、sugataさんの文章は数倍すばらしいですよ~。
そんな拙ブログをほめてもらって恐縮です。
こんごも無理解ぶりにぶつかったらsugataさんの書評を参考にさせてもらいま~す♪

Posted at 19:50 on 04 18, 2007  by ぶきおん

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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