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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


グレアム・グリーン『第三の男』(ハヤカワ文庫)

 またまた仕事が忙しくなってきた。3月が期末というクライアントが多いため、その時期までに納品しなければいけない仕事がどんどん入ってくる。会社的にも個人的に少々キャパオーバー気味で、体調がやや不安だが、それでも仕事はこなさなければならない。ハードボイルドやなぁ。

 グレアム・グリーンがマイブームになりつつある。本日の読了本は、圧倒的に映画の方が有名な『第三の男』。しかし、それには当然とも言える訳があって、もともと本書は映画のためにグリーンが書き起こしたものなのだ。本来なら直接シナリオを書けばよいものの、グリーンは小説を元にしなければシナリオを書くことができない質だったらしく、わざわざシナリオの前にこの小説を書いたわけである。

 内容は今さらな気もするが一応紹介しておくと……。
 舞台は第二次大戦後のウィーン。米ソ英仏の四国による占領管理下に置かれた混迷の街。イギリスの西部劇作家ロロ・マーティンズは、旧友ハリー・ライムに招待されてウィーンを訪れたのだが、なんとハリーは自動車事故でこの世を去ったばかりだった。しかもマーティンズは国際警察のキャロウェイ大佐から、実はハリーがペニシリンを売買する闇組織のボスであったと聞かされ、愕然とする。ハリーの死に疑問を抱いたマーティンズは、真相を突き止めるべく一人調査を開始した……。

 映画はもちろん傑作だが、さすがに原作も負けてはいない。ハリーの持つ悪の魅力や元恋人のアンナの存在、そして何より当時のウィーンという街が持つ雰囲気がイキイキと活写されている。だが、かなり重要な部分で異なる点や印象の違う部分もあることに驚いた(もうお気づきだろうが、名前も微妙に違っていたりするわけだ)。

 もっとも大きいのが、原作ではキャロウェイ大佐の一人称ですべてが語られているということではないか。映画ではあくまでマーティンズが進行役的な役割を持つため、ついつい彼の視点でものを考えてしまいがちである。だがキャロウェイは事実の記録者というかなり客観的な見方をするため、人々の行動がより鮮明に浮かび上がる。その代表が何といってもマーティンズ。映画では凡庸な男の印象がある彼だが、原作ではもう少しドンファン的なところもある酒飲みの三流作家として描かれ、映画よりアクが強い。したがって彼がハリーの死に疑問をもったり、調査にこだわるところが非常に納得でき、それがなかなか魅力的なのである。アンナやハリーに振り回される役どころも実にはまっていると言えるだろう。

 また、映画史上、最も有名なシーンのひとつと言ってよいラストシーン。マーティンズに目もくれず、しっかりと前を見て並木道を歩み去って行くアンナ、あのシーンだ。これが何と原作は微妙に違うのである。楽しみを奪うのもあれなのでここでは書かないが、序文でグリーン自身がこれについて言及しているのも面白い。

 というわけで短いながらも見どころ満載の『第三の男』。映画だけではもったいない。原作も一読の価値はあります、いやホント。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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