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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


香山滋『オラン・ペンデクの復讐』(現代教養文庫)

 中毒性が高いと先日の日記に書いたとおり、本日の読了本も香山滋。お次は同じく現代教養文庫から『オラン・ペンデクの復讐』。
 香山滋は探偵作家として紹介されることも多いが、しかしながらその作品は圧倒的にSF・幻想系である。また、古生物学に強い興味をもっていたこともあって、数々の不可思議な生き物が登場する作品も多く、映画『ゴジラ』の原作者であることは有名な話だ。本日読んだ『オラン・ペンデクの復讐』には、そんな香山の古生物学的興味が凝縮された作品が採られている。

「オラン・ペンデクの復讐」
「オラン・ペンデク後日譚」
「オラン・ペンデク射殺事件」
「美しき山猫」
「心臓花」
「蜥蜴夫人」
「処女水」
「ネンゴ・ネンゴ」
「天牛」

 「オラン・ペンデクの復讐」は戦後の探偵雑誌「宝石」の懸賞募集で当選した著者のデビュー作。スマトラで発見されたというオラン・ペンデクという新人類の真偽、その報告会での学者の突然死が一気に読者を引き込むが、ちょっと強引すぎる気も。しかし、香山滋のやりたかったことはこのデビュー作ですでに十分顕れている。

 「オラン・ペンデク後日譚」は上の続編で、夫に父を殺された妻の冒険談が柱。また、「オラン・ペンデク射殺事件」は安住の地を求めるオラン・ペンデクたちに一応の決着を見せている。この三作をまとめて読んだのは初めてだが、けっこうスタイルを変えていることに気づく。しかし、ともにメッセージ性の強い作品であることに変わりはなく、解説にもあるように反文明、原始思慕の精神は著者にとって不変のものなのだ。

 「美しき山猫」「心臓花」はどちらも冒険家人見十吉シリーズの一作。幾多の不思議な経験を積んでいる人見十吉なのに、毎度毎度事件の渦中に入り込みすぎるのが個人的にはあまりいただけない。もっと語り部としての存在に徹した方が効果的だと思うのだが。もっともそういう整合性みたいなものをこのシリーズに求めるのは野暮な話ではある。実際「美しき山猫」のギラギラしたヒロインは大変魅力的で、お話そのものは大変好み。

 「蜥蜴夫人」は残念ながら本物のトカゲ女が出てくるわけではない(笑)。あくまでトカゲの持つイメージを備えた女性の話。しかし、蜥蜴夫人ばかりか登場人物全員が巻き込まれる愛憎のドラマは凄まじいの一言。

 「処女水」は「怪異馬霊教」と同じような構造で、序盤の本格風味が後半でいつのまにか香山ワールドに取って代わられているという、これまた大好きな作品。こんな謎解きありか、と怒る人は香山滋を楽しむ資格はない。

 「ネンゴ・ネンゴ」は珍しく庶民的ヒューマニズムでラストを締めくくった作品。といってもそれに至るまでの過程はミステリー風味、伝奇的風味が錯綜して、小粒ながら捨てがたい作品。

 「天牛」は本編も悪くないのだが、巻末の中島河太郎の解説が笑える。中島先生の解説って基本的には温厚なのだが、この言い方はひどくないか(笑)。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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