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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

エリザベス・フェラーズ『その死者の名は』(創元推理文庫)

 エリザベス・フェラーズ『その死者の名は』読了。特に意図はしていないが、たまたま前回読んだアントニイ・バークリー『レイトン・コートの謎』と同じく、本書も作者のデビュー作である。創元推理文庫での再紹介が始まって以来、この一冊でほぼ初期の作品は出そろったことになるのかな?
 フェラーズも再紹介が進んで、バークリー同様ここ数年でずいぶん評価が上向いた作家だ。ただ、実は個人的にはそれほどのものかなぁという居心地の悪さがある。ほのぼのとした上品なユーモアが肌に合わないせいもあるのだが、インパクトのあるトリックや仕掛けを持ち出すわけでもないし、プロットも平凡。まとまってはいると思うがいかんせん小粒で、次も読もうという気になかなかならないのだ。
 とはいえ読みやすさは抜群だし(これは訳者のお手柄か)、本格としての水準点はクリアしているとも思う。シリーズキャラクターに好印象をもったり、このほのぼの感にはまる人がいるのも確かに納得できる話である。解説で書かれていたが、新本格として紹介されてもおかしくない云々というのも、まことに的を射た表現だ。ただ、新本格というよりはコージー派という表現の方が適切かも。
 ああ、そうか。だから自分には合わないんだ。新本格もコージーも苦手なんだよな。

 さて、本書であるが、こんな話だ。
 とある小さな村の警察署。そこへ深夜に飛び込んできたのがミルン夫人だ。なんとたったいま人を轢いてしまったというのである。警察はさっそくこの死体を調べるが、まったく身元がわからない。大量に酒を飲んでいた形跡はあるが、酒瓶の類もない。これは本当にただの事故なのか? そもそも彼はいったい何者? 何のためにこの町に来たのか?

 はっきりいって、自分的にはやっぱりダメ。謎解きとかプロットとかということではなく、序盤の設定や展開に萎えてしまってのめり込めないのである。一番ひっかかるのが、人を轢いたわりにはえらそうにしているミルン夫人のキャラクター。自分のクルマで人を轢き、もしかすると自分が殺したかもしれないというのに、この態度はないだろうと言う感じで、読んでて不愉快になってしまう。
 ミルン夫人がそういう冷酷な人物という設定だったらわかる。あるいは徹底的に死を茶化すような狙いがあるのなら、それも可。でも、本書にそんな要素はひとつもない。
 しいて言うならミステリという劇画化された世界の物語、しかもユーモアを打ち出した小説だから、ということになるだろう。ただ、それでも本格ミステリとしてのリアリティ&お約束は必要だ。この世界は現実をできるだけリアルに模倣した虚構世界である。それを無視して話を進めてはいけないし、人物描写もまたしかり。実際、こんなおばさんがいたら、その場で遺族に殴られるぐらいは覚悟すべきであろう。おまけに警察の対応もいまひとつわからない。被害者が泥酔していたことが判明すると、これじゃ死んでも仕方ない、とくる。

 ミステリだから劇画化されるのは全然かまわない。しかし、これは単に人物描写が拙いだけのことではないかと思う。あるいはユーモアのピントがずれているのか?
 トータルではまずまず悪い作品ではないだけに歯がゆい限り。これは決して自分の嗜好だけが原因ではないと思うのだが……。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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