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スティーヴン・キング『ドラゴンの眼(下)』(アーティストハウス)
スティーヴン・キング『ドラゴンの眼(下)』読了。
剣と魔法とドラゴンの正当派ファンタジーだが、実は読む前にひとつ気になることがあった。この作品は本当に愛娘のために書いた子供向けの作品なのか、ということである。というのも表面的にはジュヴナイルを装っていても、その実体はある種の毒と批判を含む大人のための物語、という作品も世の中にはごまんとあるからだ。第一キングはもともとダークファンタジーとも言うべき作品を書く作家。自分の子供のためとはいえ、あえてストレートなファンタジーを書く意義を自己のなかに見いだせたのだろうか? そんな疑問があった。
まずはストーリーから。
舞台は老王ローランドが治世する平和な国デレイン王国。ローランドにはピーターとトマスという二人の王子がいた。父と母のよきところを受け継ぎ、ドラゴンの心を持つ勇敢な王子と讃えられる兄のピーター。そして父親にそっくりな弟のトマスである。トマスも決してだめな王子ではないが、いかんせん兄が立派すぎた。いつしかトマスは兄を恨むようになる。そしてこのトマスにつけ込み、王国の支配をもくろむ一人の男がいた。それが魔術師フラッグである。何百年にわたって王国に災いの種を蒔き、そしていままたピーターに牙を剥こうとしていたのだ……。
結論から言うと面白い。さすがはキング。物語はいつもほど複雑ではなく、キャラクターもかなり単純化してはいる。しかし複雑ではないといっても伏線の張り方などは手慣れたもので、逆にいつもの大人向けのものより構成がしっかりしているほどだ(ただし上巻はやや構成がぎこちなく、描写があざといという感じを受けた。まあ、これらは毎度のことではあるが)。
そこで最初の疑問の答が出る。キングは自分の愛娘のために面白い話を作ろうとしたが、決してわざわざ子供向けに内容まで変えるつもりはなかったということだ。
一応、子供が読んでも理解できるような構造にはなっているし、いつものエキセントリックで下品なキング節はさすがに控えている(とはいってもたまには顔を出すが)。しかし、そこで語られる内容は、やはり強烈な毒を含んでいる。例えばトマス王子に関するエピソードはどれもほろ苦いものばかりだし、これが大人向けだったらもっと悲惨な役どころになっていたかもしれない。デニスという若い執事の存在も興味深い。掘り下げれば面白いテーマがいろいろと見え隠れするのだ。
結局、誰に向けて書こうが関係ないのだ。キングが考える面白い「お話」には大人向けも子供向けもなく、そんな策を弄する必要もない。キングはキングなのである。
ちなみに本作は「暗黒の塔」シリーズや「タリスマン」と登場人物名がいろいろとリンクしており、外伝として捉えることもできる。この事実自体が本のポジションを語っているといってもよいだろう。
剣と魔法とドラゴンの正当派ファンタジーだが、実は読む前にひとつ気になることがあった。この作品は本当に愛娘のために書いた子供向けの作品なのか、ということである。というのも表面的にはジュヴナイルを装っていても、その実体はある種の毒と批判を含む大人のための物語、という作品も世の中にはごまんとあるからだ。第一キングはもともとダークファンタジーとも言うべき作品を書く作家。自分の子供のためとはいえ、あえてストレートなファンタジーを書く意義を自己のなかに見いだせたのだろうか? そんな疑問があった。
まずはストーリーから。
舞台は老王ローランドが治世する平和な国デレイン王国。ローランドにはピーターとトマスという二人の王子がいた。父と母のよきところを受け継ぎ、ドラゴンの心を持つ勇敢な王子と讃えられる兄のピーター。そして父親にそっくりな弟のトマスである。トマスも決してだめな王子ではないが、いかんせん兄が立派すぎた。いつしかトマスは兄を恨むようになる。そしてこのトマスにつけ込み、王国の支配をもくろむ一人の男がいた。それが魔術師フラッグである。何百年にわたって王国に災いの種を蒔き、そしていままたピーターに牙を剥こうとしていたのだ……。
結論から言うと面白い。さすがはキング。物語はいつもほど複雑ではなく、キャラクターもかなり単純化してはいる。しかし複雑ではないといっても伏線の張り方などは手慣れたもので、逆にいつもの大人向けのものより構成がしっかりしているほどだ(ただし上巻はやや構成がぎこちなく、描写があざといという感じを受けた。まあ、これらは毎度のことではあるが)。
そこで最初の疑問の答が出る。キングは自分の愛娘のために面白い話を作ろうとしたが、決してわざわざ子供向けに内容まで変えるつもりはなかったということだ。
一応、子供が読んでも理解できるような構造にはなっているし、いつものエキセントリックで下品なキング節はさすがに控えている(とはいってもたまには顔を出すが)。しかし、そこで語られる内容は、やはり強烈な毒を含んでいる。例えばトマス王子に関するエピソードはどれもほろ苦いものばかりだし、これが大人向けだったらもっと悲惨な役どころになっていたかもしれない。デニスという若い執事の存在も興味深い。掘り下げれば面白いテーマがいろいろと見え隠れするのだ。
結局、誰に向けて書こうが関係ないのだ。キングが考える面白い「お話」には大人向けも子供向けもなく、そんな策を弄する必要もない。キングはキングなのである。
ちなみに本作は「暗黒の塔」シリーズや「タリスマン」と登場人物名がいろいろとリンクしており、外伝として捉えることもできる。この事実自体が本のポジションを語っているといってもよいだろう。
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