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ロバート・B・パーカー『湖水に消える』早川書房
読了本はロバート・B・パーカーの『湖水に消える』(早川書房)。お馴染みのスペンサー・シリーズではなく、地方の小都市パラダイスを舞台にした警察署長ジェッシィ・ストーン・シリーズである。
湖畔で発見された少女の遺体。しかし、それは溺死でなく、銃による殺害事件だった。捜査の結果、少女の身元は判明したが、両親を訪ねたジェッシィは、そこでとんでもない返事を聞かされる。なんと彼女の母親は、そんな娘などうちにはいないというのだ……。
以上が導入及びメインの事件となるのだが、これにジェッシィの別れた妻との関係や自身がかかえるアルコール依存症の問題、夫の暴力に悩まされながらも別れられないでいる妻の事件などが添えられている。
事件を通して語られるのは、いつものとおり正義への強い渇望だ。ときには法を逸脱してまでも、パーカーは正義が行わなければならないと信じている。そして人として誇り高く生きるためには何を為すべきなのか。どう生きるべきなのか。パーカーの主張はいつもストレートでわかりやすい。
だからといって、それにストレートに共感できるか、素直に感動できるかといえば別問題。例えばジェッシィのアル中問題などはキャラクター造形のうえで大変重要であり、かつ微妙に扱うべき部分だろう。一応ジェッシィもコンサルタントのところへ相談にいくなど表面的には悩んでいるところを見せる。しかしコンサルタントとのやりとりからはとても葛藤しているように思えない。それどころか相手との会話による対決、それによって起こる緊張を楽しんでいる印象すら受けるのだ。「人に対して弱みを見せることは悪なのだ」彼がこう考えていたとしても、まったく不思議はない。いわゆる「強いアメリカ」をそのまま擬人化したような、変な落ち着きのなさを感じるのである。
スペンサー・シリーズ初期の頃のような輝きは、はっきりいって今のパーカーにはない。あの頃はネオ・ハードボイルドの隆盛の中にあって、数少ない威勢の良い私立探偵が、まっすぐに自分の道を進むことに、素直に入り込んでいけた。パーカー&菊池光のコンビによる名調子も相まって、この卑しい街をどう進んでいくのか、興味をもって読んでいけた。しかし今や、正義と愛と勇気の提唱、善悪の対立する構図、そして主人公のライフスタイルなど、パターン化された要素がテレビの水戸黄門のように偉大なるマンネリズムを構築するだけである。例え方が悪くてなんだが、要は男子のためのハーレクイン。多少の設定は違うが、少なくともここ数年に書かれたスペンサーもの、ジェッシィ・ストーンもの、ついでにいうと女性探偵のサニー・ランドル・シリーズも、みな同じ印象である。
『湖水に消える』を駄作というつもりはない。シリーズの読者であれば、パーカーのファンであれば、いつもどおり楽しめる水準にはなっている。実際、私も退屈するわけでもなく、サクサク読むことができたし、草野球を終えたジェッシィたちが夕暮れまでビールで談笑するシーンなど印象深いところもある。
しかし、それだけではやはり弱いのである。こっちはもっと唸らせてほしいのである。残念ながら、そこまでの力は本書にはない。
湖畔で発見された少女の遺体。しかし、それは溺死でなく、銃による殺害事件だった。捜査の結果、少女の身元は判明したが、両親を訪ねたジェッシィは、そこでとんでもない返事を聞かされる。なんと彼女の母親は、そんな娘などうちにはいないというのだ……。
以上が導入及びメインの事件となるのだが、これにジェッシィの別れた妻との関係や自身がかかえるアルコール依存症の問題、夫の暴力に悩まされながらも別れられないでいる妻の事件などが添えられている。
事件を通して語られるのは、いつものとおり正義への強い渇望だ。ときには法を逸脱してまでも、パーカーは正義が行わなければならないと信じている。そして人として誇り高く生きるためには何を為すべきなのか。どう生きるべきなのか。パーカーの主張はいつもストレートでわかりやすい。
だからといって、それにストレートに共感できるか、素直に感動できるかといえば別問題。例えばジェッシィのアル中問題などはキャラクター造形のうえで大変重要であり、かつ微妙に扱うべき部分だろう。一応ジェッシィもコンサルタントのところへ相談にいくなど表面的には悩んでいるところを見せる。しかしコンサルタントとのやりとりからはとても葛藤しているように思えない。それどころか相手との会話による対決、それによって起こる緊張を楽しんでいる印象すら受けるのだ。「人に対して弱みを見せることは悪なのだ」彼がこう考えていたとしても、まったく不思議はない。いわゆる「強いアメリカ」をそのまま擬人化したような、変な落ち着きのなさを感じるのである。
スペンサー・シリーズ初期の頃のような輝きは、はっきりいって今のパーカーにはない。あの頃はネオ・ハードボイルドの隆盛の中にあって、数少ない威勢の良い私立探偵が、まっすぐに自分の道を進むことに、素直に入り込んでいけた。パーカー&菊池光のコンビによる名調子も相まって、この卑しい街をどう進んでいくのか、興味をもって読んでいけた。しかし今や、正義と愛と勇気の提唱、善悪の対立する構図、そして主人公のライフスタイルなど、パターン化された要素がテレビの水戸黄門のように偉大なるマンネリズムを構築するだけである。例え方が悪くてなんだが、要は男子のためのハーレクイン。多少の設定は違うが、少なくともここ数年に書かれたスペンサーもの、ジェッシィ・ストーンもの、ついでにいうと女性探偵のサニー・ランドル・シリーズも、みな同じ印象である。
『湖水に消える』を駄作というつもりはない。シリーズの読者であれば、パーカーのファンであれば、いつもどおり楽しめる水準にはなっている。実際、私も退屈するわけでもなく、サクサク読むことができたし、草野球を終えたジェッシィたちが夕暮れまでビールで談笑するシーンなど印象深いところもある。
しかし、それだけではやはり弱いのである。こっちはもっと唸らせてほしいのである。残念ながら、そこまでの力は本書にはない。
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コメントありがとうございます。
もちろん私もパーカーの文体は嫌いではありません。訳者の功績はもちろん大きいでしょうが、その無駄のない描写と独特のリズムは実に魅力的ですね。
『Mortal Stakes』の件、私には逆立ちしてもできない芸当ですので、実に羨ましいかぎり。ぜひ頑張って下さい。
Posted at 01:15 on 11 25, 2009 by sugata