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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ドン・ウィンズロウ『カリフォルニアの炎』(角川文庫)

 仕事でトラブル発生。立場上、私の責任になっちゃうんで、担当を連れてすまんすまんとクライアントに状況説明&謝罪。まさにブルー・マンディ。ただ、こちらの対処が早く、事後処理も理解してもらえて、何とか失地回復できた……のか? とりあえず、きつい一週間になりそう。

 ところで本日の読了本はドン・ウィンズロウ『カリフォルニアの炎』。
ニール・ケアリー・シリーズでお馴染みの作者がまたまた魅力的な主人公を作り上げた。その名もジャック・ウェイド。
 ジャックはカリフォルニア火災生命の火災査定人だ。火災の原因を調べ、保険の査定を行うのが仕事。腕は超一流。しかも余暇はサーフィン一色という一見優雅な生活を送る。
ところがそんな彼にも暗い過去はある。元は警察の一員だったが、取り調べ中に暴力を振るい、くびになった経緯があるのだ。しかもその事件のさなかに証人を殺されるというおまけつき。それもこれも曲がったことが嫌いで、直情的な性格のためだが、事件以後ずっとそのトラウマに悩まされてもいる。

こう書くともろ典型的なネオ・ハードボイルドのパターンだが、カリフォルニアという地のせいか、それとも軽快な文章のせいか(これは訳者の東江氏の功績も大きい)、ジャックの思想や行動は決して屈折したものではなく、その過去の割にはどこか前向きで健全な印象を受ける。
 そんなジャックが巻き込まれたのは、大規模な保険金詐欺+殺人事件。相手となるニッキー・ヴェイルは地元の名士にして実はロシア・マフィアのドン、そしてその真の姿はKGBスパイという大物である。これがまた名悪役としていい味を出している。ジャックとニッキーという二人のメインキャラについて、過去から現在に至るまでがしっかりと、そして魅力的に描かれていることが、この作品の成功した大きな理由のひとつと言えるだろう。

 それだけではない。細部の書込もなかなかのものだ。
 ドン・ウィンズロウという作家は、本来はセンスで勝負する作家だと考えている。例えばニール・ケアリー・シリーズがよい例だ。今回の作品ではそれに情報というサポートが大幅にプラスされている。もちろん今までも精緻な取材、調査無くしては描けなかったものも多いと思うのだが今回は別格である。いろいろなネタを盛り込んではいるが、やはり圧巻は保険金詐欺と火事に関する部分。とりわけ火事についての講義は、ほんとタメになって面白い。
 ウィンズロウが今後より通俗的な方向に走るのではないかという不安も実はないではない。しかしエンターテインメントに特化したとしても、このレベルで書き続けてくれるのであれば、そんな心配は無用だろう。

 とりあえず仕事でくさった気分もこの本を読んで少し癒された。『カリフォルニアの炎』はそういう元気の出る小説でもある。おすすめ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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