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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


レオ・ブルース『結末のない事件』(新樹社)

 『三人の名探偵のための事件』『死体のない事件』『結末のない事件』の三作で、日本でもその実力が見直されつつあるレオ・ブルース。本格ミステリ作家としての手腕もさることながら、ここかしこに散りばめられた探偵小説ファンへのアンチテーゼというか風刺というか、それも人気の秘密だろう。本日の読了本、翻訳としてはもっとも新しい『結末のない事件』では、それがひときわ強烈である。

 警察を辞め、私立探偵を開業したビーフのもとに、ピーター・フェラーズと名乗る依頼人がやってきた。兄スチュアートが医師ベンスンを殺害したかどで逮捕されてしまったので、ぜひその罪を晴らしてほしいというものだ。ベンスンが殺害されたのはフェラーズ家の書斎。鋭利な刃物で首を切られているところを発見されたらしい。フェラーズ家の主人スチュアートは前夜ベンスンと口論しており、加えてアリバイや凶器についていた指紋などから、スチュアートの有罪は動かないようにも思える。果たしてビーフは裁判開始までに真相を解き明かすことができるのだろうか?

 結論から言うと、これは会心の作といってもよい出来映えである。
 ただし、ハッキリ言って展開はかなり地見め。ビーフの捜査は海を越えるなど多少の動きはあっても、そのほとんどが聞き込みに終始しており、しかも事件に大きなうねりなどもないので、アッという間に裁判までなだれ込んでしまう。
 それを救っているのが、傲慢なまでのワトソン役ライオネル・タウンゼンドの存在だ。通常のワトソン役といえば、あくまで事件の記述者にして語り部であり、自分の推理など披露することもなく、探偵に振り舞わされるだけの存在である。だがタウンゼンドは違う。彼は自らも推理するし、あまつさえビーフよりも自分の方が頭はいいとさえ考えている。しかもそれでいて気にするのは自分の書くミステリ(つまりビーフの探偵譚)のことばかり。事件の途中でも、いまは中だるみの時期なのだとか、他の探偵の活躍だとかを常に気に病んでいる始末。他のミステリの探偵たちの名前もばんばん出してくる。これがめっぽう面白い。前述のように、それはパターン化された探偵小説の揶揄になっているのだが、作者は逆にそれによってミスデレクションを誘っている気配もあるから油断できない。まあ、そんなことを気にしなくても十分楽しめるのだが。

 だが、本当にこの作品がすばらしいのは、やはりその結末に驚かされるからだろう。やや唐突な感じがしないでもないが、終盤のたたみ掛けは圧巻。すべてのピースがパシッとはまり込み、この一見平凡に見えた事件が、実は大変手の込んだ事件だったことが明かされる。タイトルの意味も一度読んだら納得。
 バークリー同様再評価が進むブルースだが、残念ながらこちらは本書で翻訳がストップしている。まだまだ傑作が残っていそうな作家だけに、ぜひとも残りも翻訳してほしい。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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