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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジム・トンプスン『アフター・ダーク』(扶桑社)

 ジム・トンプスン『アフター・ダーク』を読む。
 主人公のビル・コリンズはかつて一世を風靡したボクサーだった。しかし度重なる頭部への衝撃からか精神に障害をかかえており、今では収容所を脱走して放浪の身だ。そんなビルがあるとき立ち寄ったバーで、、魅力的な未亡人フェイと出会ってしまったことから、彼は危険な誘拐事件へと巻き込まれていく……。

 うううー、きたきたきたー!
 さすがトンプスン! さすが安物雑貨店のドストエフスキー!
 相も変わらず登場するのはいかれた奴ばかり。彼らは丁々発止と裏をかき合い、ときには小さな挫折や成功を噛みしめながら、結局はカタストロフィーへと向かって驀進する。
 人間の暗黒面を描かせたら、やはりこの作者の右に出る者は見あたらない。これが本当のノワールなのだ。暗いだけではない。残酷なだけではない。甘さも切なさも兼ね備えた主人公たちのなんと格好良いことか。特にラストの数頁に至っては、ノワールに興味がない人間をも驚かせ、考えさせるに違いない。無情はいつしか無常へと変化し、読後は何とも言えぬ余韻に包まれる。トンプスンを好きか嫌いか、このラストのインパクトが踏み絵になるだろう。

 なお、本書の巻頭にG・オブライエンのジム・トンプスン論が載っているのも嬉しいところだ。オブライエンはこう語っている。「《精神的安全ネットとして機能している》犯罪小説の安心感を、トンプスンは平然とつきくずす。ミステリ読者がもっとも望まないものをこの作家は体現しているのだ」と。ただ、昨今のミステリファンはその不安感をも楽しんでしまっているように思える。読者と手を取り合うことを拒否した作家、トンプスンだが、生きていたら世のノワールブームをどう思うだろうか?

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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