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フランシス・アイルズ『被告の女性に関しては』(晶文社)
新たに始まったミステリの新シリーズ、「晶文社ミステリ」の第一回配本を読む。フランシス・アイルズの『被告の女性に関しては』である。
アイルズはもちろんアントニイ・バークリーの別名義で、昨年話題になった『ジャンピング・ジェニイ』や『最上階の殺人』はまだ記憶に新しいところ。それらバークリー名義の作品は極上の探偵小説といえるのだが、今回読んだアイルズ名義では、既訳の『殺意』『レディに捧げる殺人物語』といった作品からもわかるように、主に犯罪心理に主眼をおいて描いている。ハッキリ言ってミステリ的要素は多くはないが、そのコクはアイルズ名義の方が上であろう。で、キレはバークリー名義。
肺を患って海辺の町へ保養にやって来た主人公の学生アラン。滞在先は医師の自宅であり、医師夫妻とアランの三人による生活が物語の発端となる。夫妻は社交的で家柄も良い。しかし何事においても自信家の医師に、アランは反発を覚え、それに反比例するかのように、妻のイヴリンに惹かれていく。やがて彼女とアランの関係は行き着くところまでいってしまうが、その先には思わぬ事件が待ちかまえていた……。
プライドが高く外面はよいが、兄弟へのコンプレックスに悩む優柔不断な青年アラン。淑女か悪女か、複雑な女の性をにじませる医師の妻イヴリン。この二人を軸に、物語はユーモアと皮肉をたっぷりと含んで流れてゆく。
まあ、要は三角関係が起こって、さあどうなんだ、という単純な話なのだが、それをアイルズは丁寧に丁寧に、そして意地悪く描いていくため、退屈することがない。アランが喜んだり悲しんだり怒ったりする様を見て、人間ってなんて面白いんだろう、と感じればよいのではないだろうか。
バークリーは人間に対しても、そしてミステリに対しても、常にこういうシニカルな視点を忘れない。それが数々の傑作を生み出すもとになっていると思う。エピローグもなかなか巧く、管理人好み。映画にするとけっこうニヤリとできるラストシーンになるだろうなあ。
という具合になかなかの佳作だとは思ったのだが、帯にあるように、これをアイルズ=バークリーの最高到達点みたいにいうのはいくら何でも言い過ぎ。そりゃ商売文句なので大事なのはわかるが、あまりやりすぎるとしらけるぞ。
アイルズはもちろんアントニイ・バークリーの別名義で、昨年話題になった『ジャンピング・ジェニイ』や『最上階の殺人』はまだ記憶に新しいところ。それらバークリー名義の作品は極上の探偵小説といえるのだが、今回読んだアイルズ名義では、既訳の『殺意』『レディに捧げる殺人物語』といった作品からもわかるように、主に犯罪心理に主眼をおいて描いている。ハッキリ言ってミステリ的要素は多くはないが、そのコクはアイルズ名義の方が上であろう。で、キレはバークリー名義。
肺を患って海辺の町へ保養にやって来た主人公の学生アラン。滞在先は医師の自宅であり、医師夫妻とアランの三人による生活が物語の発端となる。夫妻は社交的で家柄も良い。しかし何事においても自信家の医師に、アランは反発を覚え、それに反比例するかのように、妻のイヴリンに惹かれていく。やがて彼女とアランの関係は行き着くところまでいってしまうが、その先には思わぬ事件が待ちかまえていた……。
プライドが高く外面はよいが、兄弟へのコンプレックスに悩む優柔不断な青年アラン。淑女か悪女か、複雑な女の性をにじませる医師の妻イヴリン。この二人を軸に、物語はユーモアと皮肉をたっぷりと含んで流れてゆく。
まあ、要は三角関係が起こって、さあどうなんだ、という単純な話なのだが、それをアイルズは丁寧に丁寧に、そして意地悪く描いていくため、退屈することがない。アランが喜んだり悲しんだり怒ったりする様を見て、人間ってなんて面白いんだろう、と感じればよいのではないだろうか。
バークリーは人間に対しても、そしてミステリに対しても、常にこういうシニカルな視点を忘れない。それが数々の傑作を生み出すもとになっていると思う。エピローグもなかなか巧く、管理人好み。映画にするとけっこうニヤリとできるラストシーンになるだろうなあ。
という具合になかなかの佳作だとは思ったのだが、帯にあるように、これをアイルズ=バークリーの最高到達点みたいにいうのはいくら何でも言い過ぎ。そりゃ商売文句なので大事なのはわかるが、あまりやりすぎるとしらけるぞ。
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