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ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ『嘲笑う闇夜』(文春文庫)
取引先と赤坂で午前三時頃まで飲む。最近は電車がなくなるまで飲むことがなかったため、やや体調が気になったがほどよく酔う程度で済む。
なお、知っている人は知っているだろうが、赤坂はミニ・コリアンタウンの様相を見せる街でもある。これが18日のイタリアvs韓国戦のあとだったら、おそらくはすごい熱狂に包まれていただろうと思うが、本日はいたって静かであった。
本日の読了本はビル・プロンジーニとバリー・N・マルツバーグの合作による『嘲笑う闇夜』。
この二人の合作と言えばトンデモ系が多いのは有名な話で、過去の邦訳には『裁くのは誰だ』(創元推理文庫)や『決戦! プローズボウル』(新潮文庫)がある(ゲテ好きな人はどちらも必読!)。解説にもいろいろと書かれているので、少しその辺の話を紹介しておこう。
プロンジーニは「名無しのオプ・シリーズ」というネオ・ハードボイルドでブレイクしたが、他のハードボイルド作家と大きく異なるのは、もともとが熱烈なるミステリおたくであるということだ。したがって、たまたまハードボイルドで有名にはなったが、要はこの人、何でもよかったフシがある。だいたいパルプミステリ雑誌のコレクションが趣味のハードボイルド探偵なんて、普通はイヤじゃん。その存在自体がパロディだ。
まあ、それでも初期はわりと真面目にミステリを書いていたのだが、マルツバーグとの合作を始めた頃から、一気にマニア魂が加速してくる。ミステリマニアをアッと言わせることしか考えられないようになってきたのだ。上記の『裁くのは誰だ』や『決戦! プローズボウル』もそうだし、プロンジーニが単独で書くものも変わったものが増え始めるのである。解説によるとマルツバーグの毒気にあてられたということらしいが、プロンジーニの初期作品を読んでいると、プロンジーニの方がヤバイような気もするけどな。
前置きが長くなったが、本書はそんなプロンジーニとマルツバーグの記念すべき合作第一作だ。田舎町で起きた連続猟奇殺人。その事件に関わる複数の人物たちの行動がカットバックで描かれてゆく。
事件を捜査する保安官。その保安官と対立する州警察の捜査官。事件を本にして名声をものにしたい地元の取材記者。取材記者の過保護な母親。取材記者の上司にして、その母親と交際している編集長。ニューヨークで名をあげた女性記者。女性記者に同行する精神医学の博士。落ちぶれた元舞台俳優。女性記者の幼なじみのバー経営者。
(ここからネタバレにて注意)
この物語でキーになるのは、博士の仮説である。なんと犯人は、自分が殺人を犯していることを知らない、と分析するのだ。
乱暴にいうと要は二重人格。カットバックで語られる各人の行動、心理描写は一面では正しいが、犯人として行動する部分は当然ながら語られていないので、読者はさまざまな伏線を読みとっていかなければならない。
つまりこれはアクロイド候補が山ほどいる『アクロイド殺人事件』なのだ。まさに反則ギリギリ、っていうか反則だな、これは。この手が許されるなら、もうミステリの可能性は無限大。作者たちはお約束のようにどんでん返しも用意しており、面白いと言えば面白いが、予測しやすいと言えば予測しやすい。しかもこっちは『スタイルズ荘の殺人』のパクリだし。
ともあれまともに読むと腹が立つので、「いろいろやってるな」というぐらいの気持ちで楽しんだ方がいいだろう。登場人物たちの描写は悪くないし、後半からは一気読みできるぐらいのリーダビリティは確実にある。ただし帯はほめすぎ。
なお、知っている人は知っているだろうが、赤坂はミニ・コリアンタウンの様相を見せる街でもある。これが18日のイタリアvs韓国戦のあとだったら、おそらくはすごい熱狂に包まれていただろうと思うが、本日はいたって静かであった。
本日の読了本はビル・プロンジーニとバリー・N・マルツバーグの合作による『嘲笑う闇夜』。
この二人の合作と言えばトンデモ系が多いのは有名な話で、過去の邦訳には『裁くのは誰だ』(創元推理文庫)や『決戦! プローズボウル』(新潮文庫)がある(ゲテ好きな人はどちらも必読!)。解説にもいろいろと書かれているので、少しその辺の話を紹介しておこう。
プロンジーニは「名無しのオプ・シリーズ」というネオ・ハードボイルドでブレイクしたが、他のハードボイルド作家と大きく異なるのは、もともとが熱烈なるミステリおたくであるということだ。したがって、たまたまハードボイルドで有名にはなったが、要はこの人、何でもよかったフシがある。だいたいパルプミステリ雑誌のコレクションが趣味のハードボイルド探偵なんて、普通はイヤじゃん。その存在自体がパロディだ。
まあ、それでも初期はわりと真面目にミステリを書いていたのだが、マルツバーグとの合作を始めた頃から、一気にマニア魂が加速してくる。ミステリマニアをアッと言わせることしか考えられないようになってきたのだ。上記の『裁くのは誰だ』や『決戦! プローズボウル』もそうだし、プロンジーニが単独で書くものも変わったものが増え始めるのである。解説によるとマルツバーグの毒気にあてられたということらしいが、プロンジーニの初期作品を読んでいると、プロンジーニの方がヤバイような気もするけどな。
前置きが長くなったが、本書はそんなプロンジーニとマルツバーグの記念すべき合作第一作だ。田舎町で起きた連続猟奇殺人。その事件に関わる複数の人物たちの行動がカットバックで描かれてゆく。
事件を捜査する保安官。その保安官と対立する州警察の捜査官。事件を本にして名声をものにしたい地元の取材記者。取材記者の過保護な母親。取材記者の上司にして、その母親と交際している編集長。ニューヨークで名をあげた女性記者。女性記者に同行する精神医学の博士。落ちぶれた元舞台俳優。女性記者の幼なじみのバー経営者。
(ここからネタバレにて注意)
この物語でキーになるのは、博士の仮説である。なんと犯人は、自分が殺人を犯していることを知らない、と分析するのだ。
乱暴にいうと要は二重人格。カットバックで語られる各人の行動、心理描写は一面では正しいが、犯人として行動する部分は当然ながら語られていないので、読者はさまざまな伏線を読みとっていかなければならない。
つまりこれはアクロイド候補が山ほどいる『アクロイド殺人事件』なのだ。まさに反則ギリギリ、っていうか反則だな、これは。この手が許されるなら、もうミステリの可能性は無限大。作者たちはお約束のようにどんでん返しも用意しており、面白いと言えば面白いが、予測しやすいと言えば予測しやすい。しかもこっちは『スタイルズ荘の殺人』のパクリだし。
ともあれまともに読むと腹が立つので、「いろいろやってるな」というぐらいの気持ちで楽しんだ方がいいだろう。登場人物たちの描写は悪くないし、後半からは一気読みできるぐらいのリーダビリティは確実にある。ただし帯はほめすぎ。
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