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ビル・S・バリンジャー『消された時間』(ハヤカワ文庫)
それはともかくとして、バリンジャーの最新刊を読む前に長年の積読も消化しておこうと、ビル・S・バリンジャー『消された時間』を読む。
ニューヨークのとある街路で、喉を切られて倒れていた男が発見された。しかも靴以外は何も身に付けていない状態で、さらには靴の中に千ドル紙幣が入っている。男は運良く一命をとりとめたが、完全に記憶を失い、自分の名前すらわからない始末だ。手がかりは千ドル紙幣のみ。男は自分の失われた時間を取り戻そうと、独力で調査を始めるが……。
ネタがネタだけに詳しい説明は御法度。ラストの意外性を楽しむ一冊だが、今読むとちょっと弱いかもしれない。ただ、通常のこの手のサスペンスものと大きく違うのは、調査が進むにしたがって主人公の男の素性がだんだんと怪しくなってくることである。この辺の展開とサスペンスの盛り上げが巧みで、リーダビリティはかなり高い。初期のウェストレイクとちょっとタッチが似ているかなとも感じた次第。
現役の本かどうかはわからないが、見つけたら読んでおいても決して損はしないだろう。
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Comments
ポール・ブリッツさん
バリンジャーの邦訳は近年になって、ようやく『美しき罠』『歪められた男』『煙の中の肖像』の三冊が追加されましたけど、残念ながらどれも『歯と爪』を超える出来ではなかったと思います。
そして『赤毛の男の妻』と『消された時間』の二作については、『歯と爪』よりは上だと思います。
で、『赤毛の男の妻』と『消された時間』ですが、個人的な好みもありますが、ケレン味をとって『消された時間』に軍配をあげます。
ただ、『赤毛の男の妻』を読んだのはかなり昔ですので、今読むとまた違う感想になる可能性もありますが。ご参考になれば。
Posted at 23:57 on 04 12, 2017 by sugata
バリンジャー、この間「歯と爪」を再読しましたが、あれ、袋とじをしていないと面白さが三分の一くらいになってしまいますね……。
「叙述トリックであることを中途で明かして読者の興味を引き付けてから『袋とじを破きますか?』と攻めてくる」のは、考えてみればものすごくあざといですね。冷静に考えれば謎解きの部分が後半三分の一というムチャな作品でもあります(笑)
86年版文春92位は……うーんちと微妙。面白いんだけど微妙(^^;)
機会があったら読んでみたいのですが、「赤毛の男の妻」と「消された時間」はどちらが面白いですか?
Posted at 18:55 on 04 12, 2017 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
さすがにこのあたりは古本屋で簡単に見つかりそうですね。『消された時間』はもしかするとちょっと厳しいかも、と思いましたが、いまAmazonで見たら1円で出品されてました(笑)。
Posted at 23:56 on 04 13, 2017 by sugata