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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


フリードリヒ・グラウザー『クロック商会』(作品社)

 ワールドカップが遂に開幕。うう、リアルタイムで開会式から見たいところだがそんなに早く帰れるはずもないので、家人にフランスVSセネガル戦も含めて録画を頼み、帰ってさっそく観戦モード。これで当分読書時間も減ってしまうだろうなあ。仕方ないので読書日記ならぬワールドカップ日記も平行して書いてみようか。しかしいろんなミステリサイトで(いやミステリに限らず)サッカーが取りあげられ、にわかサッカー評論家だらけになっていて、本当のサッカーマニアには苦虫を噛みつぶしている人も多そう。まあ、滅多にあることじゃないんで(というか最初で最後だろうなあ)多めに見てやってください。
 ちなみにフランスVSセネガルはなんと1-0でセネガルの勝利! 前予想では圧倒的にフランス優位。結果的にセネガルの金星となったわけだが、決してまぐれではないだろう。セネガルにとっての好材料がいろいろあったのも事実だ。まずは何といってもジダンの欠場。また、セネガルの潜在能力の高さ。なんせ身体能力はアフリカ勢の常として基本的に高いうえ、セネガルのほぼ全員がフランスリーグの在籍者。戦術はイマイチというアフリカ勢に言われる弱点は通じない。日本だって昨年セネガルに0-2で負けているのだ。ついでに言うと元フランス領という歴史的な背景によるセネガルの意地もあっただろう。
 だが、見逃せないもうひとつの事実がある。新聞でも話題になった例のセネガル司令塔によるあの万引き事件だ。あのときもっと事件が公式に扱われて、出場停止処分などを受けていたら今回の快挙はなかっただろう。誠にセネガルはついている。


 フリードリヒ・グラウザーの『クロック商会』を読了。先日読んだ『狂気の王国』がいまひとつ消化不良だったため、今回でなんとか自分なりの結論を出したいと思ったのだが果たしてどうか?

 シュトゥーダーの娘が部下の刑事と結婚するため、式を挙げる小さな村にやってきた。ところが旅先の小さなホテルで起こった殺人事件にシュトゥーダーが駆り出される。ただし問題がひとつだけあった。宿の女主人はシュトゥーダーの幼なじみで初恋の人だったのだ……。

 『狂気の王国』とまったく異なる軽妙な雰囲気。主人公の探偵シュトゥーダーは「スイスのメグレ」と呼ばれているが、これはスイス国民に広く親しまれているという意味での喩えだろう。
 『クロック商会』を読む限りではメグレというより「スイスのピーター・ダイヤモンド」という感じだ。一緒に捜査する娘婿にやきもきしたり、幼なじみの女主人にいいところを見せようと張り切ったり、なかなかの奮闘ぶりを見せる。どうやらこちらの方がシュトゥーダーものの本領ではないだろうか? 『狂気の王国』は、暗い過去を背負いつつもあるがままに現実を受け入れてひたむきに生きるシュトゥーダーが、不思議の国に飛び込んで人間とは何かを考える異色作だったのだ。

 それに比べて『クロック商会』はもっと娯楽に徹した話だ。当時のスイスの社会問題を事件の背景に置き、前述のとおりシュトゥーダーの捜査を中心にグラウザーは物語を進める。当時のスイスの社会問題も興味深いが、やはりシュトゥーダーの一喜一憂が読むものの共感を呼び、このシリーズの魅力となっていると思われる。
 ただ、『クロック商会』の方が実は例外という可能性もないことはないので、もう一冊残っている邦訳『砂漠の千里眼』も読んでみたい。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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