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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジョン・ロード『ハーレー街の死』(論創海外ミステリ)

 本格探偵小説の黄金時代を代表するわりには、長らくいまいちの評価しかされていないジョン・ロード。その理由の大部分は「話が退屈」「トリックがぱっとしない」「キャラクターも地味」といったところだろう。
 そんな作者にとっては不本意な評判が、この新刊で覆るのか。帯のキャッチ「最高傑作ついに翻訳なる!」はどこまで信じられるのか。
 本日の読了本は、その『ハーレー街の死』だ。(今回ややネタバレあり)

 タイトルどおり、事件はロンドンのハーレー街で起こった。変死体の主は診療所を営むモーズリー医師。死因はストリキニーネによる毒死。しかし、目撃者の証言や動機の問題などから、検死審問では事故死との評決が下る。
 だがそれでも納得できないいくつかの謎。プリーストリー博士の家に集まったメンバーが各自の推理を披露するなか、博士は事故でもなく、自殺でもなく、他殺でもない第四の可能性を示唆する……。

 ポイントはもちろん、上で挙げた「第四の可能性」とはどういうものか、ということであろう。本書の出来云々だけではなく、ミステリの本質にも関わるテーマである。普通に考えるとこれは期待大のはず。ただ、もしそんな驚くべきネタがあったのなら、とっくに本書はミステリ史上で燦然と輝いているはずなので、この辺は眉唾でかかるほうがよろしい。
 案の定、「第四の可能性」という表現に関しては誇大広告であり、なるほど確かに面白い種明かしを提示してくれているものの、「第四の可能性」はやはり言い過ぎ。第一から第三の可能性のひとつに含めても全然OKのレベルではある。
 なお、そのほかの要素については、他の作品同様のロードである。ストーリーや演出、謎解きなどは極めて地味。個人的にはそれほど気にならないものの、地の文まで使ってだらだらと推理されるとさすがに辛い。せめて会話に組み込むなどの演出はできないものか。しかも事件のトリックは一般人には思いつかないレベルのものだから、人によってはそれまでの推理すらむなしく感じるかもしれない(苦笑)。

 結論。確かに今までに読んだロードの作品のなかでは最も楽しめたが(といっても『プレード街の殺人』『見えない凶器』『エレヴェーター殺人事件』の三作しかないのだが)、クラシックファン以外にはおすすめできるものではないだろう。これがロードの最高傑作であるとすれば、少し寂しいかも。

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Comments
 
ポール・ブリッツさんさん

情報ありがとうございます。一応、知ってはいたんですが、PCのモニター上であのボリュームを読むのがしんどくて、まったく手つかずでした。しかし、そこまでいわれると、これは気になりますね。
できれば本の形で読みたいのですが、紹介文ではROM叢書でも発売されないと書いてありますし、ううううううむ、悩みます……。
 
すでにご存知かもしれませんが、S・フチガミさんのブログ「古典海外ミステリ探訪記」で、ジョン・ロードの未訳長編「クラヴァートン事件」が翻訳されています。半分冷やかしで読んでみましたが、これがもう、あのジョン・ロードが書いたものとは思えないほどサスペンスフルでどきどきして面白い! 正直、「ハーレー街の死」や「見えない凶器」よりも上だと思います。冷やかしのつもりが熱中して一気読みしてしまいました。人間味あふれる、迷えるプリーストリー教授なんて信じられますか? それが存在するんです! 容疑者を集めて芝居がかったことをやるプリーストリー教授なんて信じられますか? それが実在するんです! ジョン・ロードはただの定食屋のおやじではなかったのです! ブログで無料で読める今がチャンスかもしれません。ぜひご一読を。いや面白かった。ネットスラングでいうポルナレフになりそう。(^^;)

いちおうURL。

http://fuhchin.blog27.fc2.com/blog-category-39.html
 
ポール・ブリッツさん

>わたしはもしかすると小説というものが嫌いなのかなあ?(笑)

いやあ、そんなことはないと思いますが(笑)。私もエントリーではけっこう辛いことを書いてしまったわけですが、実は最近ちょっと見方が変わってきまして。
ジョン・ロードってなんやかんやで100冊以上の本格を書いた人ですから、まあアベレージは低くなって当然だと思うんですよ。そもそもそんなにハイレベルの本格のネタを一人で思いつけるわけがない。
いきおい本格といえども、その売りがミステリから離れた部分にシフトされてもおかしくないですよね。『世界ミステリ作家事典』や『海外ミステリ事典』などを読むと、ジョン・ロードの作品の特徴として、扱われる小道具やモチーフの多彩さ、地方色の豊かさなどがあると書かれています。小道具やモチーフの多彩さはいまでいう情報小説的な部分。また地方色はトラベルミステリ的な部分に通じるところがあると思います。売れっ子さ作家の使命として、ジョン・ロードがそういったところで当時の読者を惹きつけた可能性はありますよね。
ただ、もちろんそれだけではミステリとしては成り立たない。退屈だなんだと言われるロードですが、確かにトリックなどでは弱いものの、プラスαの味つけも考えつつ、基本的には真面目に本格を書き続けたところに価値があるのかなと、最近はそんなふうに考えております。
だから「定食屋で食べる当たり障りのない定食」と評するのは、いい線を突いてるんですけど、ちょっとロードが可哀想(笑)。
 
ロードは「見えない凶器」と「ハーレー街の死」を読みました。
惜しい作家だと思います。
「見えない凶器」は、第一の殺人トリックのあまりのトホホぶりに評価を下げ、「ハーレー街の死」は、トリックのあまりの「詭弁だよなこれ」感ぶりに評価を下げているような気が。
「見えない凶器」は、変な物理トリックなんぞ使わず「なぜ第一の殺人が起こらなければならなかったか」に焦点を当てて書けば傑作になったと思いますし、「ハーレー街の死」は……(小声で)もっと小説をうまく書けば傑作になったかとごにょごにょ。
結局、日本でも英米でもマニア向け作家になってしまいましたが、なんかこの人のミステリ読んでると安心するんですよね。あたりさわりのない定食屋であたりさわりのない定食を食っているような感じで。
わたしはもしかすると小説というものが嫌いなのかなあ?(笑)

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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