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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ブリジット・オベール『雪の死神』(ハヤカワ文庫)

 毎度毎度変わった趣向にチャレンジし続けるブリジット・オベールは、お気に入りの作家の一人。スケールや味わいは異なれど、ネルソン・デミルやジェフリー・ディーヴァーなど、この手のサービス精神が強い作家は正直エラいもんだと思う。

 『雪の死神』はそんなオベールの最新作で、あの『森の死神』の続編である。
目も見えず口もきけない全身麻痺のエリーズ。二年前に解決した殺人事件が小説化され、一躍有名になったのはいいが、雪山を訪れた彼女へ不気味なプレゼントが送りつけられる。折しも麓の町では凄惨な殺人事件が発生。どうやらプレゼントの送り主が殺人事件と関係あるらしい。ミステリ史上もっとも非力なヒロイン、エリーズは、果たしてどのように殺人鬼に対抗してゆくのか!?

※ややネタバレ気味にて注意

 全身麻痺の探偵役というと、今ではディーヴァーのリンカーン・ライムが有名だが、『森の死神』で登場したエリーズが実は一年先輩。しかし、こちらは強力な仲間もいなければ、天才的な頭脳もない(いや、けっこう頭はいいんだが、ライムと比べてはさすがに分が悪い)。もちろん優れた鑑識設備もない。そんな人が積極的に事件に関わるわけがないので、必然的にストーリーを巻き込まれ型サスペンスにせざるをえない。
 で、オベールはその辺の設定を無理なくクリアするため、エリーズの前回の活躍が小説になったという設定をもうけ、犯人側からの接触を説得力あるものにしている。
 それだけではない。オベール自身がその小説を書いた作家として登場したり、作中オベールの新作プロットが事件のカギを握っていたりして、いや、つくづく煮ても焼いても食えない作家だわ。こういうところがムチャクチャ巧いんだよなあ。舞台も「吹雪の山荘」というやつで、本格をバリバリ意識した作りだ。しかもただの山荘ではなく、これが実は身障者の養生施設。エリーズを含めた患者同士のコミュニケーションをコミカルに、ときにはサスペンスフルに味付けしてストーリーに膨らみを持たせている。

 以上のようにハッタリは十分な本作品だが、ただし今回はさすがにちょっとやりすぎたかも。
 アンフェアとか言う前に、これってバカミスではないのかな。特殊な主人公に加えて、その他の登場人物もかなり特徴的なので面白いことは面白いが、犯人が登場してから気持ちがすぅっと冷めていったほど、ガッカリした。ネタに前例があることもあるが、これなら犯人は何だってできる。動機も納得いかないし、トータルの実行力という点ではかなり疑問。ネットなどで書評を読む限り好意的な意見が多いが、私は×です。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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