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マーティン・クルーズ・スミス『ナイトウイング』(早川書房)
一昔、いやもう二昔前になるだろう。動物パニックというジャンルが、映画や小説で流行ったことがある。火付け役はもちろんピーター・ベンチリー作の『ジョーズ』。その後、熊やらワニやら犬やらヘビやらピラニアやらミミズやら蜂やら、もう数え切れないくらいの獣が人間を襲ってきた。そして『ジョーズ』から遅れること二年。ある作家がコウモリをネタに作品を書き上げた。
それがマーティン・クルーズ・スミス作の『ナイトウィング』。
大したストーリーはない。舞台はアリゾナのインディアン居留地。家畜の奇怪な死を発端にして幕を開ける吸血コウモリと人間の戦いを描いた作品だ。
この手の作品を成功させるポイントはふたつあると思う。
ひとつは獣と人間の戦いに説得力をもたせること。これは科学的なものでも良いし(ま、こちらが一般的ですわな)、オカルト的に解釈するのも手だろう。動物の特性などをしっかり説明し、なぜ人間を襲うのか、どうやったら退治できるのか、この辺をしっかり書き込んでくれないと読めたものではない。どっちにしても普通はまずあり得ない状況を物語るのだから、上手に嘘をついてほしいのである。そうしないと子供向けの怪獣物と大差ない低レベルの作品になることは目に見えている。
もうひとつのポイントは、獣との対決という縦軸以外に、対立する人間関係やロマンス、主人公の成長などの横軸でしっかりフォローすることであろう。どうしても単調になりがちな獣との戦いを物語として成立させるには、これも欠かせない要素となる。
そこでこの『ナイトウィング』。
結論から言うと、水準は極めて高い。吸血コウモリの蘊蓄は申し分ないし、退治の仕方も合理的だ。また、作者は主人公にホピ族の保安官補を採り、インディアンの部族間の対立、主人公の精神的成長、ロマンスなどを盛り込み、さらにはインディアンの伝説などでオカルト色も絡めている。はっきり言ってあまり期待しないで読み始めたのだが、リーダビリティはなかなかのものであった。さすがはマーティン・クルーズ・スミス。後に『ゴーリキー・パーク』でブレイクした作者だけのことはある。
ただ、そんなに面白かったのかといえば、「それなりに」という答えにはなってしまう。やっぱり相手がコウモリごときではイマイチ恐怖感が盛り上がらないのだ。この手の話はやはり相手が強力すぎるくらいでないと困る。
必読ではないが、類似作品の中ではハイレベルだと思うので、動物パニックものが好きな人なら読んでも損はないか。
それがマーティン・クルーズ・スミス作の『ナイトウィング』。
大したストーリーはない。舞台はアリゾナのインディアン居留地。家畜の奇怪な死を発端にして幕を開ける吸血コウモリと人間の戦いを描いた作品だ。
この手の作品を成功させるポイントはふたつあると思う。
ひとつは獣と人間の戦いに説得力をもたせること。これは科学的なものでも良いし(ま、こちらが一般的ですわな)、オカルト的に解釈するのも手だろう。動物の特性などをしっかり説明し、なぜ人間を襲うのか、どうやったら退治できるのか、この辺をしっかり書き込んでくれないと読めたものではない。どっちにしても普通はまずあり得ない状況を物語るのだから、上手に嘘をついてほしいのである。そうしないと子供向けの怪獣物と大差ない低レベルの作品になることは目に見えている。
もうひとつのポイントは、獣との対決という縦軸以外に、対立する人間関係やロマンス、主人公の成長などの横軸でしっかりフォローすることであろう。どうしても単調になりがちな獣との戦いを物語として成立させるには、これも欠かせない要素となる。
そこでこの『ナイトウィング』。
結論から言うと、水準は極めて高い。吸血コウモリの蘊蓄は申し分ないし、退治の仕方も合理的だ。また、作者は主人公にホピ族の保安官補を採り、インディアンの部族間の対立、主人公の精神的成長、ロマンスなどを盛り込み、さらにはインディアンの伝説などでオカルト色も絡めている。はっきり言ってあまり期待しないで読み始めたのだが、リーダビリティはなかなかのものであった。さすがはマーティン・クルーズ・スミス。後に『ゴーリキー・パーク』でブレイクした作者だけのことはある。
ただ、そんなに面白かったのかといえば、「それなりに」という答えにはなってしまう。やっぱり相手がコウモリごときではイマイチ恐怖感が盛り上がらないのだ。この手の話はやはり相手が強力すぎるくらいでないと困る。
必読ではないが、類似作品の中ではハイレベルだと思うので、動物パニックものが好きな人なら読んでも損はないか。
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