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 ジョー・ネスボの『その雪と血を』を読む。
 著者はノルウェー出身の作家で、日本で最初に紹介されたのはハリー・ホーレ刑事シリーズ三作目の『コマドリの賭け』。これが2009年のことだから、スティーグ・ラーソンのミレニアム・シリーズの大ヒットにのっかったとは推測できるが、その後も割と翻訳が続いているので、安定した実力と人気はもっているとみていいだろう。ネットでも好意的な感想が多いようだ。
 とはいえ最近の北欧警察ミステリは供給過多のきらいもあり、個人的な優先順位はそれほどではなかったのだが、先ごろ第八回翻訳ミステリ大賞をぶっちぎりで受賞したのでさすがに気になった。
 ちょいと調べてみると、ハリー・ホーレものではなく、新たなシリーズ、しかも殺し屋が主人公というから、これはネスボ一冊目としてはなかなかよいのではないかと読んでみた次第。

 こんな話。
 オーラヴ・ヨハンセンは組織に属する殺し屋だ。いつもはボスに命じられて淡々と仕事をこなすが、今回の仕事だけはちょっと特別だった。狙う相手は浮気をしているらしいボスの妻だったのだ。
 事情はともかく仕事にとりかかるオーラヴだったが、ここで信じられないことが起こる。なんとオーラヴはボスの妻に惚れてしまったのだ。恋と仕事の間で揺れるオーラヴは、妥協策をとろうと考えたが……。

 その雪と血を

 なるほど。これはいい。
 一言でいえば殺し屋の一人語りで進められるパルプ・ノワールである。主人公が生きる暗黒の世界を通して、屈折した登場人物たち、そして彼らが繰り広げる愛と暴力が描かれる。
 ストーリーはいたってシンプル。オーラヴがボスの妻と転落しつつもそこから這い上がろうとする物語なのだが、そこに愛と暴力がギュッと濃縮されて詰まっている。

 もちろんそれだけで傑作と呼ぶにはまだ早い。
 著者がただ懐古的にパルプ・ノワールを書いたというわけではなく、そこには現代的なミステリとしての仕掛けもきちんと組まれている。

 そしてなにより注目すべきなのは、主人公の殺し屋オーラヴの人物造形である。切れ者というわけではなく(むしろできないことの方が多い)、頭もちょっと弱いが、読書家。冷酷ではないが人は簡単に殺すことができる。ロマンチックで人情にも厚い。
 型にはめにくい、そんな独特の倫理観をもつ主人公の一人語りが非常に詩的でハードボイルド。これまた独特で魅力的なのである。
 しかも。
 その語りが油断ならない。現在起こっていることと回想が地の文で混ざり合っていたり、意識が超越したりと読み飛ばしを許さない。文体が雰囲気づくり以上の意味をもっているといってよいのだが、まあ、こういうところが翻訳者が選ぶ翻訳ミステリ大賞で高い評価を受けた理由でもあるのだろう。

 大人の男のためのファンタジー、そんな一冊である。おすすめ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 E・D・ビガーズの『チャーリー・チャン最後の事件』を読む。ホノルル警察に勤務するチャーリー・チャン警視を主人公とするシリーズは全六作あるが、本書はタイトルどおりその最終作。そして最後の未訳作品でもある。

 まずはストーリー。
 チャーリー・チャン警視がサンフランシスコに住む富豪ウォードに招待された。他に招かれたのは男性三人とオペラ歌手のエレン。実はチャン警視以外の男性は、ウォードを含め全員がかつてエレンと結婚していた者ばかりであった。ウォードはこのメンバーを集めてある事実を確かめるため、チャン警視を招いたのである。
 しかし、新たな男が軽飛行機がでやってきたとき、エレンは死体となって発見された。
 地元の保安官に請われ、思いがけず殺人事件を捜査することになったチャン警視。たちまち財産狙い、強請、復讐など、さまざまなトラブルが関係者の間にあったことが露わになる。だが肝心の手がかりは元夫たちではなく、なぜか使用人の中国人アー・シンを指し示していた……。

 チャーリー・チャン最後の事件

 しばらく前に読んだ『黒い駱駝』とそれほど印象は変わらず。尖ったところはあまりなく、非常に手堅くまとめている。
 元夫たちも怪しいのだが、それ以外にも数人の容疑者がいて、その誰もに動機や可能性がある。それをひとつひとつ潰していこうという展開は、少々辛気臭くもあるけれど、裏を返せば黄金期の作品らしい豊かさでもあり、安心して読めるところだ。
 とはいえチャン警視の依頼された案件が意外に掘り下げられていないこと、また、犯人の決め手となるネタがさすがに古くさいこともあり、本格ミステリとして物足りなさが残るのは致し方ないところだろう。

 ただ、味わい自体は嫌いではない。黄金期のゆったりした本格というだけでなく、チャン警視のまったく名探偵然としていない穏やかなキャラクター、中国の格言や故事を散りばめながらの捜査が、ちょうどいい感じで融合し、読み心地はすこぶるよい。
 また、本作では、異国の地に暮らしながらアイデンティティの持ちようが異なる二人の中国人、ウォードンの使用人アー・シンとチャン警視の対比がけっこう興味深い。このあたりは移民の問題というより、中国人の思想の問題でもあり、むしろアメリカ人読者よりは日本人読者のほうが意外に理解しやすいところではないだろうか。果たして当時のアメリカ人はどう解釈していたのか気になった。

 まあ、そんなこんなで本格ミステリとしてはまあまあといったところではあるが、個人的にはけっこう気に入った一冊である。

 ちなみに上でシリーズは全六作と書いたが、現役で入手できるのは論創海外ミステリの三冊のみ。とはいえ創元の二冊(『チャーリー・チャンの活躍』、『チャーリー・チャンの追跡』)は古書価も安く、入手は容易である。
 問題はポケミスの『シナの鸚鵡』だろう。古書価もそこそこするので管理人もこれのみ未所持。ううむ、ついでにこれも論創社で出してくれないものかな。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 喜国雅彦、国樹由香の『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』を読む。ギャグ漫画家にしてフェチ漫画家、本格ミステリマニアにして古書マニア、そして本棚探偵でもある喜国雅彦氏が、雑誌『メフィスト』に連載した記事をまとめたものだ。

 本格力

 各回の構成は以下のとおり。これらがセットで一回分となる。

・読んで書いて覚える「エンピツでなぞる美しいミステリ」
・本棚探偵が街で見つけた謎「ミステリの風景」
・みすを名言・格言集「ほんかくだもの」
・名作をイラストで紹介「勝手に挿絵」
・本当にお薦めしたい古典ミステリを選ぶ「H-1グランプリ」
・喜国雅彦の本を楽しむ姿を描く「国樹由香の本棚探偵の日常」

 いろいろな企画が盛り込まれており、それはそれで本棚探偵らしいのだが、本書に関してはそれらは単なるにぎやかしレベルに過ぎない。本書の価値はあくまで“本当にお薦めしたい古典ミステリを選ぶ「H-1グランプリ」”にある。
 これは早い話が、海外の古典ミステリのガイドである。テーマを決めて複数冊を読み比べ、毎回、その中から優勝作品を選んでいくという趣向。例えば今回はクリスティの代表作、次回はクイーンのライツヴィルものといった具合である。

 ポイントは大きく二つある。
 ひとつはこれまで本格ミステリの名作・古典と呼ばれてきた作品のぶっちゃけた感想を書いていること。
 ミステリの各種ガイドブックは数あれど、古典に関しては概ねどの本を見ても、その評価は似たようなものである。長い年月にさらされてきたにもかかわらず生き残ってきた作品だから、ある程度は評価が固まってくるのも当然。ただ、同時に欠点だってもちろんあるわけで、喜国氏はそれを普通に書いてみせた。
 ミステリのマニアが集まればあーだこーだと話が盛り上がり、ついつい万人が認める名作をけなすこともあるものだが、喜国氏はそれをそのまま書いているといえばよいだろう。普通のミステリ評論家や書評家が思っていても諸般の事情でなかなか書けないことを、自由な立場でさらっと書いている印象である。

 もうひとつのポイントは、普通のミステリガイドではありえない語りの面白さ。
 こちらは本棚探偵シリーズの本領発揮というべきか、本職のテクニックやノウハウをふんだんに披露し、下ネタも交えつつ、巧みな話芸を披露する。喜国氏お得意のパターンが目白押しで、氏の漫画のファンなら間違いなく楽しめるだろう。
 どんなテーマであっても自分のスタイルを崩さないのはさすがである。

 とりあえずクラシックファン、本格ミステリファンには楽しい一冊であった。
 ただ、喜国氏の本格以外のミステリの嗜好がかなり狭いこと、本格以外でも本格の要素で評価することが多いため、その意見には半分程度しか同意できなかったのだけれど(笑)。


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 多岐川恭の『的の男』を読む。『お茶とプール』と合本された創元推理文庫もあるが、今回はケイブンシャ文庫版で。

 こんな話。
 貧乏な暮らしから腕一本で成りあがってきた男、鯉淵丈夫。今ではいくつもの会社を経営し、愛人を囲うなどする身分だが、その傲慢な性格と強引なやり方で多くの人の恨みを買い、公私にわたって周囲は敵だらけというありさまだった。
 そして遂に、その敵たちが、鯉淵をなき者にしようと殺害計画を企てる。だが、その企みはことごとく失敗してゆき……。

 的の男

 裏表紙の内容紹介を見ると長篇というふうに書かれてはいるが、これはどちらかといえば連作短編集に近い。ただ、連作短編集とひと口にいっても、そこは多岐川恭のこと、ありきたりの構成ではない。
 各話に必ず鯉淵を殺そうとする者が現れ、その犯罪者の視点で物語が展開するという、いわば倒叙形式。しかも犯罪者は毎回変わるのに被害者は常に同じというという趣向が面白い。そして当然のことながら、被害者が毎回同じということは毎回犯罪が失敗するということでもあり、犯行方法となぜ失敗したかという興味でまずは引っ張ってゆく。

 まあ、正直なところ犯罪方法がそれほどのものではなく、そりゃ失敗もするわなぁというところもあるのだが、そもそも同一被害者の連続殺人未遂事件という設定そのものがよく考えればあまりに非現実的。語り口はいたってシリアスだけれども、なんとなくシチュエーション・コメディっぽい雰囲気を醸し出しており、著者の意図したところなのかどうかは知らぬが、結果としてはいい味わいになっている。
 ……などと考えながら読んでいると、実は物語が半ばを過ぎるあたりから、様相が怪しくなってくる。このさまざまな犯罪の陰に、別の側面があることが示唆されていくのだ。本作が本当に面白くなるのは実はここからで、さらには終盤のダメ押しで「ああそうきたか」となる。

 まとめ。ロジカルな味にはやや乏しいが、倒叙ミステリのスタイルを借りつつも、多岐川恭の持ち味たるケレンの部分がよくでた一冊である。傑作とまではいかないが、十分おすすめには値するだろう。
 それにしても比較的後期の作品なのに、これまで読んだどの多岐川作品とも似ておらず、相変わらずいろいろとやってくれる作家である。


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 論創海外ミステリからジョン・P・マーカンドの『サンキュー、ミスター・モト』を読了。
 第二次大戦をはさんだ不穏な世界状況を背景として、日本人の特務機関員ミスター・モトが活躍する冒険スパイもののシリーズ作品である。極めて特殊なキャラクターだけに、日本での知名度は意外にあるように思うのだが(あくまでミステリマニアの間にかぎった話だが)、これまでの邦訳は角川文庫の『天皇の密偵 ミスター・モトの冒険』、雑誌『EQ』の65、66号に分載された『ミカドのミスター・モト』二作のみ。この論創海外ミステリから出た本作でようやく三作目となる。

 サンキュー、ミスター・モト

 アメリカで仕事のミスを犯し、今は遠く離れた北京で隠遁生活をおくる元弁護士の青年トム・ネルソン。ある日のこと、ネルソンが多くの外国人が集まるパーティーに出かけたところ、イギリス人の探検家でもあるベスト少佐に夕食に招待される。
 ベスト少佐の目的は没落した満州の貴族、タン親王への口利きであった。北京で暗躍する一味、不穏な政治情勢を臭わせながらも、その真意は明かさないベスト少佐。ネルソンは遅くに彼の家をあとにするが、翌日、ベスト少佐が死亡したというニュースが飛び込んできた……。

 序盤のあらすじを紹介したところでもおわかりのように、主人公はミスター・モトというよりは、アメリカ人の青年、トム・ネルソンである。ミスター・モトは事件を収束に導く案内人のような役目であり、さらには主人公を成長させていく師のような存在ともいえる。
 これはシリーズ全体を通してもおおむね共通の構図のようで、ミスター・モトは狂言回しのような意味合いが強いのだろう。
 事件への関わりは決して弱くないのだが、ミスター・モトの素性などはほとんど明らかにされず、読者はあくまでトム・ネルソンを通して感情を移入させてゆく。

 ミスター・モトの印象としては、極めてビガーズの生んだ中国人探偵チャーリー・チャンに近い。かたや中国系こなた日系、かたや本格こなたスパイものという違いはあれども、その雰囲気やタイプなどはそっくり。
 両者は時代も近いし、これはマーカンド先生パクったかとも思ったが、解説によるとそもそもがビガーズの死後、チャーリー・チャンにかわるシリーズを作りたいという出版社の意向で生まれたのが、このミスター・モトということらしい。それにしても少しは違うタイプにしてもいいんではとも思うところだが、しょせん当時の西洋人から見た東洋人。中国系も日系も同じようにしか見えなかったんだろうなと邪推する次第である。

 内容的には上でもちらと触れたが冒険スパイものである。
 といっても007のような派手なギミックがあるわけでなく、かといって後年のル・カレに代表されるようなシリアスものでもない。ただ、書かれた時代ゆえ牧歌的なところはあるにせよ、著者の描きたかったのは後者のタイプなのだろうと感じた。
 主人公がワケもわからず政治的陰謀に巻き込まれるというのは、成長物語としての要素というだけでなく、結局は政治と個人の関わりを描きたかったのであり、間違いなくその時代の政治に対するメッセージなのである。
 と書いていてふと気がついたが、本作はジョン・バカンとかモームの『アシェンデン』に近いのかもしれない(といっても両方とも読んだのはかなり昔なので曖昧な記憶しかないのだが)。

 ということで昨今の過酷なスパイ小説に慣れていると、比較的ゆるい感じは否めない本作だが、実は最後1ページで衝撃的な事実が明かされる。
 もしかすると、ここを読むために今まで本書を読んできたのかと思わせるぐらい強烈なエピソードであり、あらためて本作が紛れもないスパイ小説だったのだなと実感できるところでもある。
 全面的にオススメとはいえないが、管理人的には満足できる一冊であった。


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 R・オースティン・フリーマンの『オシリスの眼』を読む。数多いシャーロック・ホームズのライバルとしては文句なしにトップグループの一人だが、その割には紹介が進まなかったフリーマン。この十年ほどでようやくいくつか翻訳は進み、最近はじわじわと再評価の機運も高まっている(気がする)のは嬉しいかぎりである。
 本作はそんなフリーマンの1911年の作品。探偵役はもちろんソーンダイク博士である。

 こんな話。エジプト学者のベリンガム氏が不可解な状況で姿を消すという事件が起こる。その真相が闇に包まれたまま二年が過ぎたころ、関係者に相続問題が持ち上がる。時を同じくして各地でバラバラになった人骨が発見され、その人骨がベリンガムではないかと推測されたが……。

 オシリスの眼

 おお、なかなかの出来ではないか。まずはフリーマンの持ち味が十分に発揮された一作といってよいだろう。
 その魅力については本書の「訳者あとがき」でもたっぷり書かれているとおり。著者は奇をてらうトリックとか読者の裏をかくとか、そういうことにはあまり興味がなかったようで、もちろん結果的にそういうことになればなお良しだったとは思うのだけれど、著者の考えるミステリはまず論理ありき。謎が科学的かつ論理的に解明されることこそ、著者の考えるミステリの重要な要件だったのだ。
 本作のラスト、ソーンダイク博士の謎解きではそれが最大限に活かされており、まさに圧巻。本書中でも最大の見せ場である。
 また、奇をてらうトリックに興味がなかった云々とは書いたけれど、本作のメイントリックにはなかなか面白い趣向が凝らされており、他の作品に比べると大きなアドヴァンテージにもなっている。

 ただ、個人的には悪くないと思ってはいるが、それだけに作風の地味さ、ストーリーの起伏の少なさがつくづく惜しい。フリーマンの作品全般にいえることではあるのだが、意外性やサプライズまでは求めないにしても、もう少し読者のウケを意識しても良かったのかなと思う。
 本作でも序盤は悪くないけれど、そのあとが非常にゆったりしたテンポになってしまい、物語が動き始めるのは全ページの半分も過ぎたところである。それまでは物語の背景の地固めみたいな感じで、ここに文学的香りを感じる向きもあるようだが、ううむ、そこまでのものかな。語り手のロマンスを味付けにしているから、著者もサービス精神がないわけではないのだろうけれど。

 まあ、その点さえ目をつぶれば、先に挙げたようにフリーマンの持ち味は十分に発揮されており、ケレン味のない手堅い本格探偵小説といえるだろう。クラシックミステリのファンならやはり読んでおきたい。


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 ニュースではゴールデンウィークが後半に入ったとか何とか話しているが、いや、普通に働いていたらゴールデンウィークは今日からだろうに。プレミアムフライデーもそうだが、役所や大企業の思惑や都合だけで勝手に常識を決めるのは止めてもらえんかな、ほんとに。

 というわけで、ゴールデンウィーク“初日”である。一応家族がいるので普段でも休日に一人でふらふらすることはないのだが、本日は別である。なんせ、中野、西荻窪、八王子でそれぞれミステリがらみの用事ができてしまったのだ。まあ、嫁さんもミステリマニアなら同行させるころだが、さすがにそんなはずもなく、本日は一人で出撃。

 まずは中野。目指すは中野サンプラザで開催されるまんだらけ主催の「大まん祭」である。
 かつて雑誌『少年』に掲載された乱歩の少年探偵団ものの外伝的作品があるのだが、それをまとめた『江戸川乱歩からの挑戦状1 SF・ホラー編 「吸血鬼の島」』が先行発売されるのである。一般発売は今月中旬なのだが、ここで買えばまんだらけ購入特典の小冊子やトークイベント用のパンフもつくというので、これは行くしかあるまい。しかし、まんだらけからまさか乱歩の本が出るとは夢にも思わなかったなぁ。もう油断も隙もないな。

     

 ちなみに相当の混雑を予想して、一時間ぐらいは行列も覚悟していたのだが、意外にすんなり入れて少々拍子抜けであった。
 本日は編者の森英俊氏と野村宏平氏によるトークイベントもあったのだが、あまり時間もないので後ろ髪を引かれつつ今度は西荻窪へ向かう。

 西荻窪での目的地はミステリ専門古書店、盛林堂さん。予約してあった盛林堂ミステリアス文庫の新刊『魔子鬼一作品集成 屍島のイブ』の受け取りである。規模こそ違えど論創ミステリ叢書やミステリ珍本全集に負けないラインナップは、むしろ私家版ならではか。魔子鬼一の本が新刊で読めるなんてどんな時代だよ。しかもこれが第1巻というのだから(苦笑)。
 こちらでは店主に『江戸川乱歩からの挑戦状1 SF・ホラー編 「吸血鬼の島」』の話をうかがったり、“屍島のイブ”の読み方は“しとうのイブ”or““しかばねとうのイブ”、どっちなのかなどと確認するなど。
 ついでに多岐川恭がバーゲン的に表の百円台にいくつかあったので未所持を拾う。やれ嬉しや。

    

 ここで次の目的地に向かうところだが、腹も減ってきたので昼食タイム。駅から少し北へ歩いたところにある、かの料理評論家・山本益博が愛してやまないカツ丼を出してくれる坂本屋。相変わらず行列ができているが、今日ばかりは待ち時間もそれほど気にならず。

 腹も満たされたところで本日最後の目的地は八王子。こちらも本日より開催されている八王子古本まつりに参戦である。ただ、けっこうなスケールの割にはそれほど出物はなく、これまで縁のなかったアルレーを一冊拾うにとどまる。まあ、久々にゆっくり古本まつりを見物できていいストレス解消にはなったからよしとしよう。
 最後はパブ「シャーロック・ホームズ」に寄って、ケルキニーで一人乾杯。とにかく一日中、探偵小説のことばかり考える日なんてそうそうないだけに、久々にいい気分で帰宅したのでありました。

    

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 遅ればせながらJ・K・ローリングの『ハリー・ポッターと呪いの子』を読む。
 ハリー・ポッター・シリーズの正式な続編にして最終巻ということなのだが、これがなんと小説ではなく脚本である。なんでもう一手間かけて小説にしなかったのかは不明だが、本作はもともと舞台としての作品であり、ローリングだけでなく、ジョン・ティファニーとジャック・ソーンの三名共同で起こしているので、その辺の事情も関係しているのかもしれない。

 こんな話。『ハリー・ポッターと死の秘宝』での戦いから19年。今ではハリーも二人の男の子の父親となり、その二番目の子供アルバスがホグワーツに向かうところから、物語は幕を開ける。
 英雄の息子アルバスだが、その学園生活は決して楽しいものではなかった。なぜかハリーのライバルだったスリザリンに組み分けされたり、飛行訓練では自分だけが飛べなかったり、何より嫌だったのは父ハリーと比較されることであった。しかし、その重圧に押しつぶされそうになるアルバスを助けてくれたのが、ドラコ・マルフォイの息子スコーピウスだった。彼もまたヴォルデモートの息子ではないかと噂され、内に苦悩を抱える少年だった。
 そんな二人は周囲への反発から、時空を超えた冒険へと旅立つことになる。『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』の三大魔法学校対抗試合でヴォルデモートの手によって殺された息子セドリックを救うために……。

 ハリー・ポッターと呪いの子

 良い意味でも悪い意味でも何かと話題になる超ベストセラー。村上春樹しかり又吉直樹しかり、賛否両論あるのは当然としても、読書好きのなかには超ベストセラーというだけで敬遠する人が多いのは読書あるあるの一つだろう(苦笑)。
 管理人も若い頃はそういう時期もあったけれど、売れる売れないは基本的に内容とは直接関係のないことなので、今ではほとんど抵抗感はない。むしろ世界的ベストセラーのファンタジーがどういうものかという興味もあるわけで、そもそも『指輪物語』だってそんな興味で読んでいるのである。

 ただ、抵抗感はないのだけれど、内容についてはいつも引っかかるところがあるのは確かだし不満も多い(苦笑)。
 理由としては、主にキャラクターの造型、そして詰めの甘さというか雑なところ。反対に悪くないのは、全体的な狙いや構成か。

 キャラクターについては個人的な好みが大きいが、実はハリーやロンですらそれほど好ましく思えない。
 作者自らみな欠点があるように書いているという話を読んだことがあるが、それとは別問題。キャラクターそのものが嫌というより、キャラクターが数々の困難を乗り越えているのに、ちーっとも人間的に成長しないことが嫌なのである。一作が終わってせっかく成長できたりわかりあえたりしているのに、次の巻が始まるとだいたい元の木阿弥である。いくら成長物語がベースにあるといってもこれではやりすぎ。だからいつも同じような読後感しか残らない。

 構成については実にオーソドックスながら、意外なほどサプライズなどに気を配っており、読者をアッといわせたい稚気は常に感じる。ミステリ的仕掛けも多く、お話し好きが喜びそうな設定は上手いと思う。
 ただ、それを完成形にもっていく手際がよくない。伏線もやたらと張るので矛盾や回収し忘れも少なくないし、やはり雑というのが適切か。その場その場での効果を最大限に狙っているいためか、最後に全体像を見ると非常にバランスが悪くなっている。

 とまあ、シリーズ全体へのイメージはそんなところなのだが、これは本作『ハリー・ポッターと呪いの子』においても同様であった。主人公の拗ね具合とか飲み込みの悪いハリーとか、キャラクターに対する印象もおそろしいほど同じである。
 詰めの甘さも相変わらず。今回は時間を遡って“If”の物語をメインに据えているのだが、アイディアは悪くないけれども、“If”の世界がなぜこのようになってしまったのかという作りや根拠が荒っぽくて実にいただけない。正直、どうとでもなる設定とはいえ、その後の展開を作者の都合のいいようにするためだけの“If”の世界になってしまっているのだ。要は懐かしのキャラクターを活躍させたかった&ラストの悲劇のリフレインを見せたかっただけではないかと。
 ただ、真相自体はなかなか面白くて、こういうミステリ的な仕掛けについては、なぜかローリングさん、巧いのだ。そのための伏線もまずまずだし、終盤でかなり盛り返してくれるところはある。

 しかしなぁ、これを正式な完結編といっていいものかどうか。内容的にも商品の在り方としても、外伝以外の何物でもないと思うのだがなぁ。あ、もしかするとシリーズってまだ続くのかね?


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 マイクル・コナリーの『転落の街(下)』読了。
 今回、ややネタバレ気味ですので、未読の方はご注意を。

 転落の街(下)

 過去の婦女暴行事件と市議の息子の転落事件を捜査するというのが、本作の大雑把なストーリー。その二つの事件は密接に関係するというのではなく、今回はいわゆるモジュラー型。直接のつながりはないのだが、ボッシュの生き方に大きな影響を与える事件として描かれている。
 まあ、考えたらこれまでの作品も結局、事件の本筋よりも、むしろその事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がする。

 本作では特にそれが顕著。
 事件を通して、組織やパートナーとの確執(毎度のことではあるが)が生まれたり、ボッシュが引退を考えるようになったり、娘マディとの交流を深めたり、さらには新しい恋人ができたりと、まあ忙しいこと。
 もちろん、こういうサイドストーリーが縦に横にと張り巡らされることで、ボッシュ・シリーズの深みや厚みが増していることは間違いないし、だからこそファンとしては先が気になるのである。
 管理人としてはボッシュのロマンスも去ることながら、娘マディとのやりとりがもっとも癒される部分ではある。刑事志望の彼女がボッシュをあっと言わせる部分はこれまでなら考えられない展開だが、ボッシュの引退問題、さらには彼女が成長して実際に警察に入ることまで考えさせるわけで、あざとさも若干は感じるけれど、やはりコナリーは上手くなったと思わずにはいられない。

 また、こういうサイド・ストーリーの面白さだけでは、もちろんない。
 肝心の二つの事件も、それぞれ単独で成立するぐらいの中身はある。
 例えば市議の息子の転落事件では、殺人・事故・自殺という三つの選択肢を提示しつつ、この中でどんでん返しを見せてくれる手腕は鮮やか。死体についた傷やビデオなど、地味ながら説得力あるネタを小出しにしつつ、最後は意外な形で事件の様相を反転させる。おまけに、その事件をとりまく政治的状況でさらに一捻りする。
 かたや過去の婦女暴行事件は、容疑者が当時八歳の少年だったという、ある意味、不可能犯罪的な状況を作り出す。まあ、さすがにこれは大した仕掛けもないのだが、オーソドックスなサイコスリラーという雰囲気で、転落事件ほどの面白みはないけれども、犯人逮捕のシーンはさすがに練られていて見事。こちらはボッシュの新しいロマンスが絡み、それに伴ってボッシュの刑事という人生そのものが問われるあたり、やはりただでは終わらない。

 事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がすると先に書いたが、こうして要素要素を出してみると、ストーリーのメインとなる事件とサイドストーリーが実に巧みに融合されている印象だ。だからこそクライムストーリーでありながら、ボッシュ自身の物語にもなっているのだなと再確認した次第。
 最近のボッシュ・シリーズは面白いことは面白いけれど、もうひとつ食い足りない部分もあっただけに、本作はかなり満足。次の『ブラックボックス』もぜひこの調子を期待したい。


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 マイクル・コナリー『転落の街』をとりあえず上巻まで。
 日本でもコナリーの新作はまずまず安定して紹介が続いているが、ハリー・ボッシュものとなると、ゲスト出演を除けばおそらく2014年の『ナイン・ドラゴンズ』以来だからけっこう久しぶりだ。

 転落の街(上)

 こんな話。
 ロス市警で未解決事件の特別捜査を担当するボッシュの次なる任務は、とある婦女暴行殺害事件。しかし、DNA再調査で容疑者と思われた男は当時八歳の少年だった。警察のミスか、それとも……?
 捜査を続けるボッシュのもとに緊急連絡が入る。高級ホテルの一室から市議の息子が転落するという事件が起こたのだ。自殺あるいは事故、それとも殺人? 被害者の父親である市議はボッシュの仇敵でもあったが、なぜか彼はボッシュに捜査を懇願する。
 二つの事件が錯綜するなか、ボッシュはさらに捜査を進めていくが……。

 いやあ、ボッシュものはやはりいいなぁ。リンカーン弁護士も悪くはないが、個人的にはボッシュもののほうが好みである。今回も小さなところから事件の様相がガラリと変わってくるシーンがあったり、なかなか好調。
 詳しい感想は下巻読了後に。
 

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